日誌


2022/03/19

POLITICAL ECONOMY第209号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
本当に日本は経済大国なのか?
                NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田 芳年

  昨年末、日経新聞が以下のデータを報道した。
 「内閣府が12月24日発表した2020年度の国民経済計算年次推計によると、国別の豊かさの目安となる1人当たり名目GDPは2020年(暦年)で4万48ドル(約428万円)となり、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中19位だった」。

1人当たりGDPは27年に韓国に抜かれる

 日本は2000年時点でルクセンブルクに次ぐ世界第2位だったが、この20年間に米、独、英に抜かれ、お隣の韓国は22位と日本に迫っている。この日経記事は日本経済研究センターの予測も掲載、「日本の1人当たり名目GDPは27年に韓国、28年に台湾を下回る。高齢者人口の増加に加え、デジタル化の遅れに起因する労働生産性の伸びの弱さが主因だ」と報じている。変動する為替レートを実際の取引に調整した「一人当たり購買力平価GDP」でみても、日本は台湾(15位)、ドイツ(18位)、韓国(28位)にすでに抜かれて33位にランクされている。

 他にもいくつかの指標がある。日本のGDPは米中に次いで世界第三位の規模を確保しているが、世界経済における比率は90年代の15%から5.7%に低下。スイスのビジネススールが毎年発表している「国際競争力ランキング」で日本は1989年から4年間、アメリカを抜いて第1位だったが、その後順位を落とし、2019年版で30位に後退。かつて世界でもトップクラスだった労働者の所得水準もOECD加盟国中22位と韓国の後塵を拝している。反対に国の借金(債務残高)でみると、日本(対GDP比)は20年末で266%となり先進7カ国(G7)中最悪で、ベネズエラ、スーダンに次ぐワースト三位。

企業の力も凋落

  日本経済の原動力となってきた企業の力はどうか。世界時価総額ランキングでみると、1989年に上位50番以内に日本企業は32社もランクインしていたが、最新の22年版では50位以内にトヨタ自動車1社のみ。アメリカのビジネス誌『フォーチュン』が毎年発表しているグローバル企業の収益ランキング・ベスト500で見ると、1989年に日本企業は111社もランキング入りしていたが2019年版では52社に減少。国際的に注目度の高い論文数で見ると、20年前は4位、10年前は5位、そして19年には10位に後退。かつて世界のトップを走り続けた鉄鋼、造船、家電、半導体産業の凋落も著しい。

 このデータをどう受け止めるべきなのか。
 もちろん米、中に次ぐ第3位のGDPを確保し、外貨準備高は1兆4000億ドルと中国に次ぐ2位の規模で、対外純資産高は356兆9700億円(2020年末)と、30年連続で「世界最大の債権国」の地位にある。人口5,000万人以上の国で比較すれば日本の一人当たりGDPは購買力平価換算では世界第6位。そう考えると、日本は依然として「世界で有数の経済大国」との評価も可能だろう。

大国意識が目を曇らせている

 しかし、上述の凋落のデータを冷静に眺めると、「日本は経済大国」であるという評価は日本人の思い込みによる“幻想”であるという現実を突きつけている。1970-80年代の高度成長期に形成された『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(エズラ・ヴォーゲル著)との意識がいまだに色濃く残っており、それが日本経済を見る目を曇らしていることに気づくべきだ。とくに80年代の成長期、ハイテク景気、バブル景気の時代に青春を過ごした50歳代以降の人々にこの傾向は強い。世界と比較すると、日本人はそれほど豊かな生活を送っているわけでもなく、経済力も先進国の中程度との評価を受け入れるべきだ。そうした「不都合な真実」を直視したうえで、内外の諸政策を根本から再考してはどうか。


18:01

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

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これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告