日誌


2015/01/29

「グローカル通信」第13号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「福島の復興なくして日本の再生なし」とは?
 −福島県南相馬市からの視点−

                         えこえね南相馬研究機構理事 中山弘

  「福島の復興なくして日本の再生なし」という言葉を時々耳にするが、福島に住んでいる人たちは空しく感じることも多い。日本のどこかではアベノミクスやオリンピックと景気の良い話が飛び交っているようだが、被災地ではどこか遠いところの話に思える。東日本大震災とそれに続く原発事故が起きてからもうすぐ4年になろうとしているが、福島県の原発周辺の自治体の復興はまだまだ先のように感じる。

 私は埼玉県の住人だが、3.11の2週間後に南相馬市を復興支援ボランティアで訪問した縁で、月に2、3回ほど通いながら再生可能エネルギーとの共生による農業再生や地域活性化、あるいはまちづくりワークショップなどの支援をしている。昨年4月にグローカル通信の関係者の南相馬スタディツアーをコーディネートしたご縁で、半年に一度ぐらいのペースで寄稿することになった。そこで、被災地と外部を俯瞰して見る視点から、南相馬の今とこれからを紹介し、読者の皆様にも理解を深めていただきたい。

何をもって復興と言うのか

 南相馬市は、福島県の太平洋沿岸、通称「浜通り」の北側の中核都市である。福島第一原発からの距離が約10km〜40kmに位置しており、いまだに人が住めない20km圏内、震災直後は屋内退避だった30km圏内、そして圏外が混在している。放射性物質が飛散したのが原発から北西方向であったため、西の阿武隈山系に近いところは放射線量が高いが、東側の海沿いは低く、安全とされている年間累積被ばく量1mSV以下のエリアも多い。

 しかし、人口は減少している。震災前には約7.1万人いた市民が、現在では 約 4.7万人と2/3になってしまった。特に子どもや若い人たちが減少している。幼児は震災前の半分以下、小学生4割減、中学生3割減、20〜30代が3割減となってしまった。結果的に高齢者の割合が急増し、65歳以上の人口比率が33.4%と、2030年頃の日本を先取りしている。しかも、若い人がいないから介護や看護の従事者を獲得できず、高齢者施設があっても人手不足で入居やケアを受けられない状況にある。これらの状況から現在も市外や県外の施設から戻ることができず、災害関連死がいまだに増えている。せめて故郷に戻り、人生の最期を迎えさせたい思いがあります。
 
 20圏内に位置する小高区は、避難指示解除準備地域に指定されていて、立ち入ることはできるが、居住することつまり夜に泊まることはできない。この地域には 1万2,842人が住んでいたが、現在は市外に約5千人が避難、市内の仮設住宅に3,200人、借り上げ住宅等に2,400人が暮らしている。かつては何部屋もある大きな家に住んでいた方たちが、そこに住む
ことができず、6畳一間などの住まいを余儀なくされる状況が続いている。

 農業もまったく再生できていない。放射能影響への懸念から、今年度の米の作付けはわずか2%であった。露地野菜も販売作物としてはほとんど機能していない。これまでは農業への賠償金もあったが、これに依存することは次第に難しくなっている。大規模ハウスや植物工場を建てたり、集落営農などへの移行が必要だが、まだまだ復興への道のりは遠い。
 
再エネとの組み合わせで農業を再生

 このような環境のなかでも、未来に向けて前向きに取り組んでいこうとする人たちもいる。原発から20km内外の農家の間で、田畑の上部に太陽光パネルを設置して農業所得を売電所得で補完することで、農業再生と地域活性化を図る取組みが始まっている。南相馬市は「再生可能エネルギー推進ビジョン」を掲げており、原発に依存しない自治体を目指している。

 また、20km圏内の小高区では、人が帰っていないJR常磐線の駅前に、コワーキングスペースを設けたり、小高区に立ち寄る人たちのための食堂を経営したり、昔ながらの方法で蚕を飼い絹織物を作ろうとする人たちもいる。誰も住んでいる人がいない時間が止まった様な町でも、そこで働くことで再び町を動かしていく。何らかの活動があれば、取引先やスタッフ、あるいは受益者が集まるようになる。そうすれば、課題や解決法も見えてきて、新たなネットワークのきっかけにもなるだろう。また小高駅前にはアンテナショップも開店した。地域の人たちがつくったお花や小物、絹織物などを販売・マーケティングをするためのものである。

 今のところ、小高地区で、戻りたいと考えている人は60歳以上で3割いるが、40歳未満では 10%レベル。地元の人たちや外部支援の人たちを含めた取組みが、ここで暮らせるかもしれない、戻れるかもしれない、というプラスの想いを引き出すと期待している。このようなサイクルが動き出せば地域経済も回り出す。日本が将来遭遇する人口減少問題の解決にも繫がっていけたら良い。

 また、震災後は道路が寸断され、かつ常磐線も不通になり陸の孤島的になったが、昨年9月には原発の横を通る6号国道が開通して南のいわきと繫がった。また昨年末には常磐高速道路が仙台まで開通し北ともつながった。さらに、今年3月1日には常磐道が全線開通する予定で、首都圏からも3時間ちょっとで結ばれる。

 百聞は一見にしかず。この記事の読者の皆さんも、ぜひ、南相馬に足を運んでいただき、理解を深めるとともに、再生・復興に向けた交流を進めていただけたら幸いです。

 どうぞよろしくお願いします。


09:40

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告