政労使会義による「合意形成型」春闘の画期
グローバル産業雇用総合研究所長 小林良暢
1月29日、経団連と連合のトップ会談が開催され、経団連の榊原定征会長は「賃上げに最大限努力する。デフレ脱却に向けて正念場」と力説、連合の古賀伸明会長も「デフレ脱却には月例賃金の引き上げが不可欠」と2%以上のベアを強調、15春闘がスタートした。
大企業では過去最高益の更新が相次ぐ中で、自動車や電機など大手産別の主力企業連 (トヨタ・日立などの単組)は、2月中旬に賃金水準を一律に底上げするベースアップ(ベア)要求を提出、団体交渉が本格化する。3月18日の集中回答日に向け「前年実績」をどのくらい上乗せするかをめぐる大詰めの交渉に臨むことになる。
昨年の14春闘では、連合はベア1%を要求、結果はトヨタが0.78%、日立が0.65%を獲得したが、連合全体では0.5%、一時金の増額分0.5%を加えても定期給与の伸びは1.0%止まり、2%賃上げを目論んだ安倍首相をがっかりさせた。結局、消費者物価が3%上昇したために、実質賃金がマイナスに沈んだ。
実質賃金は大幅プラスに転ずる可能性も
今15春闘は、連合がベア2%を要求、自動車・電機もそろって6000円を要求する。この結果がどうなるからは、未だ予想の域を出ないが、昨年が要求1%でベアは半分の0.5%だったことからすると、今年のベアは2%の半分の1%ということになる。しかし、安倍内閣の「官邸春闘」のプッシュ効果でベアが1%を超え、一時金の増額分0.5%を加えると、定期給与の伸びが2.0%を実現していく可能性もあり、なおかつ物価上昇が1%台に落ち着けば、実質賃金は大幅プラスに転ずる可能性も出てくる。ベア1%超えは1993年春闘以来22年ぶりのこと。アベノミクスは春闘2年目にしてようやく「実りの1年」となるが、こんなにうまくコトが運ぶかどうかは保障の限りでない。
労働界は、連合や大産別の幹部は慎重な物言いを崩していないが、労働ジャーナリストやマスコミ関係者の一部からは、15春闘について「賃上げ春闘復活」とか、「継続的な賃上げをつかむ契機」、「反転攻勢が転ずるチャンス到来」などの声が春と共に増しつつある。だか、私はそうは思わない。
今年は「春闘60年」である。春闘はこの60年の間に、私の命名に従えば「太田春闘」(55~74年)→「宮田春闘」(75~89年)→「連合春闘」(90~)と変転してきて、最後の「連合春闘」も4半世紀になる。そして、その「連合春闘」も「14アベノ春闘」で「合意形成型春闘」に質的に変化、15春闘でこれを完成させようとしている。もはや、高額ベアや賃上げで攻勢をかける時
代ではなく、それは“Lover come back to me ”というものだ。
その根拠は、日本経済新聞のWEB版に載った「日経 WEBインタービュー『無理しても賃上げ』古賀・連合会長に聞く」(2014.1.27)の中に見出すことができる。
古賀会長は、この中で「連合は国民所得の向上がデフレ脱却になると言ってきた。政労使会議の場で合意が取れたのはひとつの成果だ」、「安倍晋三首相が必死でベアをと言うのは、アベノミクスが危ないという危機感からではないか。賃金が物価に追いついていないから、危機感があると思う。連合は、アベノミクスはリスクが大きいとして批判的だったが、デフレ脱却は同じだ。所得を増やして消費を増やす。アベノミクスの成功、デフレ脱却にとって、今年がかなり分岐点だ」
この発言で古賀会長は2つのことを言っている、ひとつは、アベノミクスの成功、デフレ脱却を評価していること。いまひとつは、「賃金が物価に追いついていない危機感」は「賃上げで経済の好循環」につながるかどうか「今年はその分岐点だ」という点である。こうした考え方は連合主要幹部に共有されているとみてよい。
以上、15春闘は、賃金決定は労使の交渉に委ねながら、政労使会義の「合意形成型」でコトが運ぶ「アベノ春闘」になる画期の春闘である。また今年は、現下の労使の最大の問題であり、かつ社会問題でもある正規と非正規労働者の格差問題の解決の糸口についての「合意形成」を図ることも、重要かつ喫緊の課題である。