日誌


2014/12/19

「グローカル通信」第12号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「地方創生」は地方経済を再生させるか

                                   神奈川県寒川町議 中川 登志男

 一般会計の総額が過去最大の96.3兆円に上る2015年度予算案が1月14日に閣議決定され、同26日に召集された通常国会にて審議される。

 昨年12月の衆議院議員総選挙を受け、発足した第3次安倍政権は「地方創生」を看板政策に掲げており、地方創生関連予算は内閣府など10府省にまたがって、192事業に計7225億円が計上された。

 地方創生関連事業は、①雇用創出、②地方移住、③出産・結婚・子育ての3つに大別されるようだ。①としては、地方版総合戦略の策定支援に0.9億円、地域資源を活用した「ふるさと名物」の開発・販路開拓支援に16億円、地域企業の取引状況を把握する「地域経済分析システム」のデータ充実に2.2億円、観光地が連携する「広域観光周遊ルート」の形成促進に3億円、などが計上されている。

 また、②としては、地方の私立大学の経営強化に257.5億円、地方移住の相談窓口「全国移住促進センター」(仮称)設置に1億円、都会の若者が一時的に移住する「地域おこし協力隊」の拡充に0.9億円、などが計上されている。

 さらに、③としては、「待機児童解消加速化プラン」の推進に124.3億円、出産や子育ての相談支援を行う「子育て世代包括支援センター」整備などに17.3億円、といった内容になっている。

こうした国の事業のほか、地方自治体の予算編成の指針となる地方財政計画に「まち・ひと・しごと創造事業費」が新たに1兆円計上された。地方債などを含めた地方財政計画の全体の財政規模は85.3兆円となり、03年度以来の高水準となった。

 政府が今回、地方に予算を重点配分するのは、アベノミクスの行き詰まりがあると思われる。地方には、「アベノミクスの恩恵は地方に及んでいない」という批判が強い。このため、財政出動により地方経済を立て直すことで、「経済の好循環」を生み出すのが今回の大規模予算の狙いであろう。また、今年は4月に統一地方選が行われるという事情も考えられる。

「地方創生」名ばかり、ごった煮予算

 確かに、地方関連予算は付けないよりは付けてくれる方がありがたいのだが、それらがどのように「地方創生」につながるのかが、正直言って分かりにくい。例えば、「朝方の働き方の推進」(厚生労働省)、「女性研究者の活躍促進」(文部科学省)、「仕事と生活の調和推進調査研究」(内閣府)など、「地方創生」との関連性がよく分からない予算も少なくない。言ってしまえば、国債費を除けば何でも「地方創生」に含まれる、といったところなのだろう。

 なお、「地方創生」と言えば、最も重視されるべき地域の一つに沖縄があると思うが、沖縄振興予算は前年比162億円減の3340億円となり、5年ぶりの減額となった。今回の減額分の大半を占めたのは、約140億円の減額となった沖縄独自の一括交付金であり、繰り越しの多さが減額の理由だと政府は説明している。

 だが、減額の本当の理由は、宜野湾市にある米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する翁永雄志知事へのけん制にあることは想像に難くない。また、沖縄振興予算は減らす一方で、辺野古移設関連の建設費は大幅に増額しているが、それは地元経済にはあまりプラスにならないだろうし、何よりも、昨年11月の沖縄知事選で示された民意にあまりにも鈍感でないかと思われる。

 「地方創生」にどうつながるのかが分かりにくい予算が多く計上される一方で、地方自治体の「固有財源」でもある地方交付税は、14年度当初予算の16.1兆円から15.5兆円と微減となった。以前からある事業を「地方創生」名目に変えただけの政策も目立つ一方で、地方交付税が増えるどころか微減となり、本気で安倍政権は「地方創生」に取り組もうとしているのか、その姿勢がこの予算案からはあまり伝わってこない。



13:57

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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