無年金・低年金者救済はどうなった?
経済ジャーナリスト 蜂谷 隆
消費税の10%への増税が、2017年4月と1年半先送りされたが、そのあおりを受けて受給資格を25年から10年とする無年金者救済や低年金受給者に対する最大5000円支給の実施が延期されようとしている。消費増税が先送りされたので財源確保ができないためとされている。確かにこれらの政策は「社会保障と税の一体改革」で、消費再増税とセットとされているものだが、格差の拡大が著しい中で行われた消費増税で低所得者の生活が脅かされている現状では、むしろ優先して取り組む課題ではないか。
2015年10月に実施予定だった消費税の2%増税(8%→10%)によって、17年度からは年間約2兆8000億円の税収増が見込まれていた。これに対応して子育て支援に8000億円、国民健康保険財政支援など医療・介護に1兆5000億円、低年金無年金者対策に6000億円が実施される予定だった。
ところが、消費税の再増税の先送りしたため、これらすべての施策を実施すると、15年度4500億円、16年度で1兆円以上の財源が不足するという(「日経新聞」2014年11月25日付け)。
そこで安倍政権は、これらの政策のうち子育て支援と医療・介護施策(65歳以上の介護保険料の軽減は検討中)は15年度から実施するが、低年金無年金者対策は消費税の再増税が実施される17年4月まで延期すると言うのだ。
無年金者対策は、年金の受給資格を現行の25年から10年にするというもので、保険料を10年以上25年未満払ってきた人が救済される。もうひとつは、所得が低い年金生活者に月最大5000円支給する「年金生活者支援給付金」である。「社会保障と税の一体改革」の中で、数少ない花丸政策との評価があったものだ。
ちなみに受給資格を25年から10年とする制度改正の財源は年300億円、「年金生活者支援給付金」は5600億円である。
この二つを先行実施することになると、消費税の再増税とセットという建前は崩れるし、財務省としても事実上全政策のを認めることになることもあって抵抗しているのだろう。
貧困高齢者増加に歯止め
そもそも民主党政権が進めた「社会保障と税の一体改革」は、当初の理念から大きく外れ、まず消費増税ありきで、負担増に見合う社会保障サービスの改善は見えなかった。税制改革は、所得税の累進課税の強化だけでなく金融所得課税との一体化などを十分やったうえで消費税に手をつけるべきであった。「社会保障と税の一体改革」は、いつの間にか「税と社会保障一体改革」となり、最後は「消費税と社会保障の一体改革」となってしまったのだ。
しかし、それでも「増税が社会保障サービス向上と一体で行われたのは初めてで画期的」と神野直彦氏は、経済分析研究会での報告で強調されていた。低年金無年金者対策は、社会保障サービス向上の中で目に見える数少ない政策なのだ。
最後にひとつ提案。受給資格を10年に短くする政策を先行実施することは可能ではないか。財源が少ないことと「年金生活者支援給付金」は、年金受給者が対象だからだ。しかも、「年金生活者支援給付金」は、消費税率を10%に上げた日に実施となっているので、先行実施するためには法改正が必要となる。
貧困高齢者増加に歯止めをかけることは、消費拡大にも結びつく。政権の姿勢が問われていると思う。