日誌


2014/11/16

「グローカル通信」 第11号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「介護保険制度は早晩崩壊する」
—新潟の施設の実態—

                                    元新潟教職員組合員 南雲 明男

 私の友人A氏は、この夏から新潟市のある社会福祉法人(特別養護老人ホームと6施設)の理事長を引き受けて運営の改善に奮闘しています。

 この介護施設では、前理事長の独善とずさんな運営で収拾のめどが立たないままでした。理事会と職員会は、理事のA氏に後釜としての理事長就任を懇請しました。前理事長は、県行政からの行政処分(新規利用者の受け入れ4カ月間停止)や改善命令を出されていました。10月下旬には背任の疑いで逮捕される事態となりました。

 Bさんは、別の施設で介護と給食調理員を兼務しています。最近、この2人を囲んで福祉の現状について話しをする機会がありました。

恣意的な行政指導

 A氏によれば今の介護保険制度は早晩崩壊し、私たちの世代は介護保険金を支払った対価としての権利は行使できないというのです。えェー、冗談じゃない! 新潟県(上越市)は全国でも最高レベルの保険金を取られているのですよ。家族構造の核家族化と介護保険財政の破たんとの両極の中で、不可避な道なのでしょうか。

 A氏曰く、政府はこれまでの高齢者の介護政策(公的な扶助)を変更して各家庭(家族責任と負担)に委ねる路線へと舵を切った。今までは建設企業と組んで大規模介護施設を各地に作ることで利益を供与してきた施策から一転、増設抑制と小規模施設の淘汰へと路線転換を図っているというのです。論証はともかくとして現実に推移はドロドロしています。パイの利益を誰が手に入れるか。

 A氏の施設は、新潟県と新潟市行政の圧迫の中で存亡の岐路に立たされているのですが、何のことはない経営権をだれが握るかの攻防なのです。県と市の行政の狙いは、はっきりしています。天下り先の確保なのです。私たちの言う人物を理事長(と理事の構成)と事務長に据えれば物事は大目に見ますよと。行政指導の恣意的発動。ここまで来ると官僚による私利私欲の権化です。銀行は、銀行で県行政の思惑を先取りします。これ以上の融資はできないと迫ります。

 法人存続の攻防は、弁護士の介在抜きに切り抜けることは不可能です。事案を引き受けた東京の弁護士は行政と銀行の思惑を巧みに回避しつつも、一方で給食施設運営に関東の人員を派遣する手法を取りました。

 三つ巴の攻防は、半沢直樹の倍返しの世界が相互の利益を巡って繰り広げられています。事実は小説・テレビよりも奇なりですね。天下りの理事長でも3分の2の理事の決議で解任できるでしょう? いやいやそれはできません。彼らはかっての子飼いの部下を理事に据えて、3分の2以上を固めているからです。どこでも同じですよ。新潟ではね。

人間味ある人が多い介護施設職員

 Bさんは施設の内情を吐露しました。

 施設の介護の人たちは安い給料ですが、本当に親切で感心させられます。介護の仕事に自らの生きがいを感じています。でも、どこか心や体に傷を負っていると思うんです。それなりの企業のサラリーマンを辞めてこの仕事に再就職した人でも、過酷な競争に敗れて人間嫌いな面を持っている人が多いようです。だからこそでしょうか、弱い人に尽くすことで喜んでもらえる実感が働く喜びと共存しているのでしょうね。

 施設の中の人間関係は、レベルの低いいじめ合いが頻繁ですよ。職種の上下や入所者同士での陰湿な言動に針がありますね。悲しくなることが度々です。個室の廊下の前まで掃除をしても部屋の中まではしませんから、個々人では見かねるほど大変な人もいるのです。

 介護福祉の領域は全国どこでも、腐敗と矛盾、人権軽視の事例が蓄積しつづけています。「農業、医療・介護、労働、教育」を自公安倍政権の市場原理主義に委ね利潤追求に従属させる限り、経済学は1%の富と権力の恣意的道具の役割しか果たさないでしょう。


09:26

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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