「介護保険制度は早晩崩壊する」
—新潟の施設の実態—
元新潟教職員組合員 南雲 明男
私の友人A氏は、この夏から新潟市のある社会福祉法人(特別養護老人ホームと6施設)の理事長を引き受けて運営の改善に奮闘しています。
この介護施設では、前理事長の独善とずさんな運営で収拾のめどが立たないままでした。理事会と職員会は、理事のA氏に後釜としての理事長就任を懇請しました。前理事長は、県行政からの行政処分(新規利用者の受け入れ4カ月間停止)や改善命令を出されていました。10月下旬には背任の疑いで逮捕される事態となりました。
Bさんは、別の施設で介護と給食調理員を兼務しています。最近、この2人を囲んで福祉の現状について話しをする機会がありました。
恣意的な行政指導
A氏によれば今の介護保険制度は早晩崩壊し、私たちの世代は介護保険金を支払った対価としての権利は行使できないというのです。えェー、冗談じゃない! 新潟県(上越市)は全国でも最高レベルの保険金を取られているのですよ。家族構造の核家族化と介護保険財政の破たんとの両極の中で、不可避な道なのでしょうか。
A氏曰く、政府はこれまでの高齢者の介護政策(公的な扶助)を変更して各家庭(家族責任と負担)に委ねる路線へと舵を切った。今までは建設企業と組んで大規模介護施設を各地に作ることで利益を供与してきた施策から一転、増設抑制と小規模施設の淘汰へと路線転換を図っているというのです。論証はともかくとして現実に推移はドロドロしています。パイの利益を誰が手に入れるか。
A氏の施設は、新潟県と新潟市行政の圧迫の中で存亡の岐路に立たされているのですが、何のことはない経営権をだれが握るかの攻防なのです。県と市の行政の狙いは、はっきりしています。天下り先の確保なのです。私たちの言う人物を理事長(と理事の構成)と事務長に据えれば物事は大目に見ますよと。行政指導の恣意的発動。ここまで来ると官僚による私利私欲の権化です。銀行は、銀行で県行政の思惑を先取りします。これ以上の融資はできないと迫ります。
法人存続の攻防は、弁護士の介在抜きに切り抜けることは不可能です。事案を引き受けた東京の弁護士は行政と銀行の思惑を巧みに回避しつつも、一方で給食施設運営に関東の人員を派遣する手法を取りました。
三つ巴の攻防は、半沢直樹の倍返しの世界が相互の利益を巡って繰り広げられています。事実は小説・テレビよりも奇なりですね。天下りの理事長でも3分の2の理事の決議で解任できるでしょう? いやいやそれはできません。彼らはかっての子飼いの部下を理事に据えて、3分の2以上を固めているからです。どこでも同じですよ。新潟ではね。
人間味ある人が多い介護施設職員
Bさんは施設の内情を吐露しました。
施設の介護の人たちは安い給料ですが、本当に親切で感心させられます。介護の仕事に自らの生きがいを感じています。でも、どこか心や体に傷を負っていると思うんです。それなりの企業のサラリーマンを辞めてこの仕事に再就職した人でも、過酷な競争に敗れて人間嫌いな面を持っている人が多いようです。だからこそでしょうか、弱い人に尽くすことで喜んでもらえる実感が働く喜びと共存しているのでしょうね。
施設の中の人間関係は、レベルの低いいじめ合いが頻繁ですよ。職種の上下や入所者同士での陰湿な言動に針がありますね。悲しくなることが度々です。個室の廊下の前まで掃除をしても部屋の中まではしませんから、個々人では見かねるほど大変な人もいるのです。
介護福祉の領域は全国どこでも、腐敗と矛盾、人権軽視の事例が蓄積しつづけています。「農業、医療・介護、労働、教育」を自公安倍政権の市場原理主義に委ね利潤追求に従属させる限り、経済学は1%の富と権力の恣意的道具の役割しか果たさないでしょう。