弥生3月、金融政策のポイント
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢
春3月の東京証券取引所は2月22日の取引時間中に1989年の史上最高値3万8957円44銭を上回り、その後、3月に入っても4万円を超える史上最高値を更新する場面を続けている。3月22日には取引中の最高値4万1087円75銭をつけている。
3月7日の参院予算委員会で日本銀行の植田和男総裁は、物価上昇率を2%で安定させる目標について「見通しが実現する確度は引き続き高まっている」として、それが見通せる状況になれば、「マイナス金利政策など大規模緩和策の修正を検討していく」と踏み込んだ。これは、マイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール(YCC)など大規模緩和への修正を、岸田政権としての既定路線だとするということである。そして19日の金融政策決定会合でマイナス金利からの脱却とYCC撤廃に踏み込んだ。
しかし、「2%物価安定目標の実現に向けて着実に歩を進めている」というのはいかがであろうか。あたかも日銀が思い切った利上げに動くかのような観測を市場に与えてしまうからだ。このような発言は、浮世離れした安直な発言と私は見る。事実、一時、東京外国為替市場においても円買い・ドル売りが加速した。それを受けて日経平均株価も下落方向に向かった。
日本経済の現状を見れば、まだまだ金融緩和を続けざるを得ないだろう。市場の中に日銀は利上げに動くというような見通しが出るとショックは大きくなろう。金利引き上げに向かうとしてもマスコミや講演の場などを通じて、少しずつ市場に沁み込ませていくような伝え方が望まれるところである。
賃上げと物価の好循環は「徐々に」
日銀は2月26日、企業が賃上げを販売価格に反映する動きが「徐々に広がっている」との調査結果を公表した。これで日銀がマイナス金利を早期に解除するとの見方が市場で広がるなか、賃金と物価の好循環が強まり、「基調的な物価上昇率が徐々に高まっていく」ことを見通しとしたのだろう。
また、人件費の上昇を値上げの理由に挙げる企業が徐々に増加するなど、企業行動には変化の動きがみられる。リポートでは「長らく続いてきた賃金や物価が上がりにくい状況が徐々に変化してきている可能性を示唆している」と指摘している。
こうした日銀の思惑通りに事が運ぶかどうかを占う試金石となったのが、春季労使交渉(春闘)の回答であった。政府も日銀も先行きを成り行きに固唾を飲んで見守っていたのである。
3月13日に集中回答日を迎えた春闘は満額回答を獲得した企業も目立ち、その結果、賃上げ率は昨年の3.6%(厚生労働省の統計)を上回り5.28%となった。さらに第二次集計でも5.25%となった。
賃上げ率は4%台後半から5%程度となるだろう。しかし、「物価と賃金の好循環」の実現は、今後数年かけて目指すべきである。