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2018/04/10

POLITICAL ECONOMY 第113号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
景気回復が実感できない一因は大津波・原発事故だ
                     経済アナリスト 柏木 勉

 本年3月はいろいろなことがありましたが、東日本大震災が起こって7年目を迎えました。今回は、東日本大震災と景気回復の実感との関係について考えたいと思います。

 景気回復が続く中で、一般国民の多くがその実感を持てないのはなぜでしょうか?

 これに対して、企業が過去最高の利益を更新しているのに賃上げを抑制しているからだと云われてきました。今年の春闘もたいしたことはなく、まったく期待外れといわざるを得ません。ベアはあってもなくても同じような結果です。個々の組合員は定期昇給ないしは賃金体系維持分がありますから、まあ、組合用語で云うところの「一定の」成果にはなります。また大企業では一時金をかなりの水準で出しています。「一時金を出してやって基本給上昇になるベアは黙らせる」というのは、従来からの経営サイドの基本姿勢です。それが貫かれているのです。リストラに怯える労使協調路線によって、官製春闘は今年も期待外れに終わりました。

 さてそこで、不十分な賃上げが景気回復を実感させないというのは確かですが、今回は、それとは別のあまり取り上げられない要因を考えたいと思います。とはいえ、あまり詰めて検討してきたわけではないので、明確な数字をあげて申し上げることができません。かなり単純化した大まかな話になりますが、その要因とは東日本大震災(大津波と福島原発事故)の影響です。ただし誤解しないでいただきたい。以下では、あくまで経済学的に考えるということです。

大津波と原発事故がストックを減少させた

 大津波と深刻な原発事故を引き起こした東日本大震災は家屋、工場、公共施設、交通機関、堤防、港等々の破壊、福島原発事故によるメルトダウン、放射性物質の拡散、汚染水流出、そして何よりも死者1万6千人、行方不明者2千6百人と、甚大な被害で日本経済のストック(国富)を減少させ流出させてしまいました。

 このストックの減少は、いわば広大な水田に巨大な穴があいてしまって耕作ができなくなってしまった、あるいは全国の全ての広く長い高速道路に大きな亀裂が生じて通れなくなってしまったというイメージです。巨大な穴と亀裂のために全体の生活水準は低下します。実際は直接の被害者の生活水準が大きく低下し、それ以外の国民はあまり低下しませんが、波及効果が低下の方向に引っ張ります。この穴と亀裂を埋めるために政府は巨額の復興予算を組み、東電はもちろんのことですがその他の民間の企業や個人も大きなコストを払っています。

 資金(カネ)の面からいうと、日銀が無からカネを生み出して事実上の財政ファイナンスをしていますから、その一定部分は資金調達に役立っています(国債発行)。

 しかし、問題は実体経済であり、必要な人とモノは無から生み出すわけにはいきません。
まずは穴や亀裂を埋めるために人とモノという実体の投入が必要です。ですが、その投入は穴や亀裂を埋めて元どおりにする(ストックを元の水準にもどす)だけのものです。この人、モノの投入分は大津波、原発事故が起きなければ、他の用途に回して国民生活の向上に寄与できるものでした。ですから、その意味で、本来つぎ込まなくて済んだものに膨大な人、モノがつぎ込まれているのです。そして、これらの投入で穴と亀裂が埋まるまで、つまりストックが元の水準に戻るまでは生活水準の向上はありません。日銀が財政ファイナンスで資金をいくら用意しても、元の水準にストックを回復するために人、モノが投入されていれば、生活向上に投入される人、モノはその分だけ少なくなってしまいます。

大震災がなければつぎ込まなくても済んだ人、モノの投入もGDPにカウントされる

 ところが、大震災がなければつぎ込まなくても済んだ人、モノの投入は実質GDPにカウントされます。カネでカウントすれば名目GDPになります。穴や亀裂を埋めて元の状態に戻すだけなのに、GDP成長率は高くなります。まだ元の状態に戻らない間は、低下した生活水準はGDPの成長によって徐々に改善するものの、もともとの水準より低いことに違いはありません。

 一方、俗世間的には景気回復とはGDP成長が続くことといわれています。しかし、以上のようにGDP成長が続いても、生活向上につながらないことが生じるわけです。

 これはストックとフローの関係の話です。安倍政権はこのことを全く無視し、GDP成長が「いざなぎ景気」を超えて戦後最長になることだけを強調して自画自賛しています。

 大まかな数字をあげますと、政府の「東日本大震災復旧・復興関係経費」は2011年度から2016年度までで31兆7千億円が投入されました。このうち「原子力災害復興関係」は4兆5千億円です。この数字だけでは、どこまでが復旧への支出か(ストックが元どおりになる)、どこからが復旧を超えた支出か判然としませんが、いずれにしても大津波と原発事故が起こらなければ、これだけの支出と人、モノの投入は必要ありませんでした。これだけの支出のうち相当部分を、もっとほかの分野、例えば社会保障に回すことが可能だったわけです。それが不可能になって国民の生活向上は遅れてしまった。GDPの成長が続いても生活向上の実感が持てない一因になったのはまちがいないでしょう。


10:31

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第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

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