高齢者の生活破綻と年金制度
まちかどウォッチャー 金田麗子
突然85歳の母から電話がかかってきた。「こんなにお金が無くなるとは思わなかった」。88歳の父が入退院を繰り返していることが直接の原因だが、公務員だった父、公共企業体職員だった母は、まあまあの水準の年金を受給し、蓄えもそれなりにあったはずだと思っていたので驚いた。
しかし夫婦とも80歳を超え、病身で医療費がかさめば預貯金も減り続けるのは当然だった。母は、年金の早期受給を開始したため、一回分の受給金額が低い。父が死亡した場合、年金が大幅に減額されることは明らかだ。不安になるのは当たり前だった。
厚生労働省の「老齢年金受給者実態調査」(平成28年)によると、年金の平均受給額は年間で男性185.1万円、女性105.9万円、受給無しがそれぞれ6.5%、18.1%存在する。
世帯構成を見ると、男は2人が43.6%、3人が17.4%の順であるのに対し、女は2人が35.4%、1人が21.5%と年齢が高いほど独居である。世帯構成員は、配偶者のみが男69.1%、女45.6%、子または子の配偶者と同居は男34.2%、女38.1%。親と同居が64歳以下男で18%、女13.6%、65~69歳で男9.2%、女7.2%である。
単身高齢者の低年金と就労
60代の子どもが、80代、90代の高齢の親の面倒見ている。私のまわりでも、パートや非正規で働きながら高齢の親の面倒を見ている人が少なくない。子ども世代が高齢化しているのに、自身の老後の見通しなどたたない状況があるのだ。
就労している人は64歳以下は男57.8%、女42.9%、65~69歳は男44%、女26.5%、70~74歳男28%、女15.4%と、男女ともに70代半ばまで働いていることがわかる。就業状況別にみると、パート就労の割合は64歳以下の男で30.3%、女27.4%、65~69歳は男17.4%、女14.9%、70~74歳男10.7%、女6.1%と、自営業の男9%、女4.7%に比して多い。
全受給者の32.4%である夫婦のみの世帯の受給年金額は、300~400万円が37.5%である。収入の平均は433.8万円だが、このうち公的年金の割合が76.9%(同82.9%)を占める。支出の平均は月24.6万円で、平均収入だとしてもぎりぎりの生活だ。
単身世帯は全受給者の17.5%だが男5.5%、女12%。年齢構成では65~69歳が19.6%、80~84歳は17.8%、男女別にみると、男は65~69歳29.2%、70~74歳17.6%、女80~84歳20.1%. 75~79歳18.8%で、女性の45.6%が80歳以上の受給者となっており、単身女性の高齢化が明らかだ。
年間の平均収入は、男244.1万円、女179.6万円で、年金の占める割合は、男79.4%、女87.3%。年金受給額の平均は男性164.1万円。女性は140.3万円。これに対し支出額は月間で男17.1万円、女14.4万円である。年金だけでは家計は明らかに赤字で、収入額に対してもぎりぎり。配偶者のみの世帯より厳しい単身世帯の状況がうかがえる。
このように現状でも厳しい生活実態の年金受給者だが、さらなる超高齢社会に向かっていくと予想されている中、現行の年金制度の維持は困難という議論がさかんに行われている。
それもこれもたどっていくと、70年代半ば以降の世代、団塊ジュニア世代の婚姻率、出生率の低下が、少子高齢化の要因になった。橋本健二氏「新・日本の階級社会」(講談社)によると、いわゆる就職氷河期にあたって、大卒の就職が厳しく、新卒も含め非正規が拡大した。非正規労働者を中心に「労働者階級」の下に「アンダークラス」が出現。就職氷河期世代はアンダークラスの主力部隊だという。貧困であるがゆえに、結婚して家族を構成し、子どもを産み育てることができなかった世代というのである。
安定雇用への転換-制度維持ために
風が吹けば桶屋がもうかる式の話ではないが、非正規からの安定雇用への転換、正社員化、大幅な賃上げを進める以外、解決する手段はないのではないか。まずは最低賃金の大幅な引き上げ。非正規でも大卒初任給程度の生活ができるベースを確保したい。
もっと簡単なことは、いわゆる「無期転換ルール」を確実に進めることだ。この4月から改正労働契約法により、有期雇用で5年を超えて契約更新する人が希望したら、無期雇用に転換できるのだが、実態は「雇止め」などの脱法行為をおこなう会社が、特に大手の製造現場や、大学・研究機関などを中心に広くみられる。
こんなちまちました卑劣なことをやっているから、日本国内で若者は車なんか買わない。経営者は自分で自分の産業の首を絞めているのだ。労働力の一部は、AI化できても、消費し、税金や社会保険料を払い、人間自身の再生産も人間自身にしかできないと
いうのに。