アベノミクスは終局を迎えるのか
横浜アクションリサーチ 金子文夫
ついに物価2%の達成時期を明示せず
日銀は4月27日の金融政策決定会合で、物価上昇2%の目標の達成時期を示すことを
断念した。2013年4月、黒田総裁は、日銀の通貨供給量を2年で2倍に増やし、2%の物価目標を達成するとして、2を三つ並べるインパクトのある異次元金融緩和政策を打ち出した。これがアベノミクスの目標であるデフレ脱却のための象徴的な宣言となった。
しかし、その後、物価2%は一度も達成されず、目標時期は6回に渡って先送りを繰り返し、ついに今回の断念に追い込まれた。物価目標の意味は変化したのだろうか。
最近刊行された、軽部謙介『官僚たちのアベノミクス』(岩波新書)は、2012年秋の第二次安倍政権成立前後から2013年夏までの初期アベノミクス形成過程について、首相官邸、財務省、日銀などの水面下の動きを追跡しており、実に興味深い。それによると、リフレ派エコノミストに影響された安倍首相が、デフレ脱却のために日銀に2%の物価目標を2年で達成という責任をとらせようとし、白川日銀総裁が懸命に抵抗するなかで、妥協の産物として2013年1月の政府・日銀共同声明が作成された経緯が明らかにされている。共同声明では、2%の物価目標を示す点では日銀が譲歩し、2年という達成時期を書かない点では安倍首相が譲歩する形となった。
この共同声明を引き継ぎ、2013年4月に黒田総裁は2%を2年で達成と表明したわけである。リフレ派の岩田副総裁は、2年で達成されない場合はどう責任をとるかと問われ、その時は副総裁を辞任するとまで言い切った。しかし、その後も目標は達成されず、岩田氏は5年の任期満了まで辞任をしなかった。
異次元の金融政策は変わっていくのか
安倍政権の支持率が低下し、自民党内では次の総裁候補の名前が取り沙汰されている。仮に安倍政権退場となった場合、アベノミクスという経済政策は看板を架け替えることになるだろう。しかし、当初の3本の矢のうち、象徴的な意味をもっている日銀の異次元金融緩和政策は、そう簡単には変更できないのではないか。
黒田総裁の姿勢、リフレ派が主流となっている日銀審議委員の構成だけでなく、当面の景気見通しをみれば、「出口政策」へと舵を切ることはありそうもない。実際のところ、金融政策の方向転換は、為替相場、株価、長期金利などに想定を超えた急変をもたらす可能性がある。これまでの世界的な金融緩和の結果、グローバル金融市場には過剰なマネーが堆積しており、日本の金融市場を動かす力をもっている海外の投資ファンドが投機的行動に出るリスクがある。
さらにいえば、財務省の一連の失態によって、消費税の10%への引上げも覚束なくなってきた。財政再建の見通しがまたも遠のくとすれば、これも日本経済のリスクを高める材料になる。日銀は、マイナス金利による金融機関の経営悪化、過剰なマネー供給による資産バブルという問題を抱えながら、身動きをとれない袋小路に陥っているのが実態ではないのか。
日銀、GPIFによる円安、株高効果は続くのか
アベノミクスの成果といえば、円安操作を通じた株価上昇があげられる。円安誘導について、4月27日の財務省発表によれば、外国為替特別会計による為替介入は2011年12月から現在まで、一度も行っていないという。にもかかわらず円安が進行したのは、日銀の金融緩和の効果が大きい。それに加えて、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の役割も見逃せない。GPIFの円安誘導に果たした役割については、伊東光晴「安倍経済政策を全面否定する」(『世界』2018年4月号)が、データを示して明らかにしている。GPIFは国債中心の資産運用から国内株式、外国株式、外国債券などの割合を増やす方針へと転換した。
つまり、日銀は金融緩和による円安誘導を通じて間接的に、またETF購入を通じて直接的に株価上昇を支え、GPIFは外国株式・債券購入による円安効果を介して間接的に、また国内株式購入を通じて直接的に株価上昇を促した。このような公的機関による円安、株高誘導が見えているため、海外投資ファンドの日本株購入が進展した。
しかし、日銀、GPIFによる円安、株高効果はすでに限界にきている。日銀の動き方次第では、円高・株安を招きかねないし、GPIFもポートフォリオ変更の枠を使い切っている。ここにも、動くに動けないアベノミクスの行き詰まりをみることができる。