日誌


2017/01/11

POLITICAL ECONOMY 第87号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「地元就活」で一役
熊本県内企業就職率10%アップが目標

                             東海大学経営学部教授 小野 豊和

 東海大学では、2015年度に熊本県と就職支援に関する協定を締結。また、文部科学省の平成27年度COC+事業(地(知)の拠点大学による地方創生推進事業)に採択された静岡大学と熊本大学による取り組みに事業協働機関として参画している。熊本地区では、熊本大学による「"オール熊本"で取り組む熊本産業創生と雇用創出のための教育プログラム」に参画している。具体的には5年間かけて熊本県下の大学卒業生の熊本県内企業への就職率を10%引き上げようという狙いだ(2015年度は34%)。2016年度は、就活日程が前倒しになり、6月から大手企業の面接が解禁となったが、熊本地震の影響で県内学生の就職環境が一変した。熊本地震枠を設ける企業もあったが、全体のムードとしてはスローダウンした感じとなった。そんな時、COC+事業に対する大学別取組についての公募があり経営学部就職委員長として応募したところ県内トップで承認され33万円の助成金をいただけることになった。
 
 応募した企画内容は『業界研究 地元企業発見 就活推進シンポジウム』で、1回当り3~6社の熊本県内企業の人事採用担当と卒業生の先輩社員を招聘し、シンポジウム形式で意見交換をしようというもの。従来は全国から1日に約70社を呼ぶ面談形式の合同企業説明会を行ってきたが、本シンポジウムでは、内定を勝ち取る秘訣など、フレンドリーな雰囲気のなか先輩ならではの貴重な情報提供があった。併せて地元企業との交流を通じて受験(採用)意欲増進を図ることも狙いとした。

 本格的な就活シーズンを迎える昨年の11月から年明けの1月にかけて4回開催し約450人の学生が参加した。熊本地震で壊滅状態になった農学部が、昨年5月下旬から熊本キャンパスの教室を使うこととなり、本シンポジウムは熊本キャンパスの経営学部、基盤工学部だけでなく農学部を含めた熊本の全学部対象に実施し助成金を有効に活用することができた。なお助成金は1人1万円の謝礼に使った。

学生の目が輝いた

 シンポジウムは就職委員長の私が司会を担当、まず参加企業の採用担当による5分間のプレゼンから始め、続いて東海大卒の先輩社員から就業風景、業界動向等の説明に加え就活への心構え、先輩からの助言、学生へのメッセージなどが寄せられた。一通りの説明が終わりフロアーにマイクを渡すと、学生たちからは、授業中の目つきとは異なる輝いた目で様々な質問が出た。学生たちの感想を以下に紹介する。

「先輩による実際の仕事の現場の話が聞けて、新鮮で有意義だった。熊本地区での就職を真剣に考える機会となった」、「企業の特色が聞けてとてもよかった。どのような仕事をしていて、他の企業とどのように繋がっているのか、会社がどのような人材を必要としているのかなど、社会に出るために必要な多くのことが聞けた」、「インターンシップや就活を通じて、どのように行動し、考え、企業を見るべきかなど、自分が一生働く会社を選ぶための勉強になった」「仕事をするということはただ働くのではなく、誰かの役に立つということを教えてもらった。本シンポジウムに参加して仕事について深く考えようと思った」など。

 人事担当者による明解なプレゼンは、学生にとって面接時の自己PRの参考にもなる見事なものだった。臨場感ある生の情報は今後の就活に生かされるであろう。


09:15

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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