本当に日本は経済大国なのか?
NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田 芳年
昨年末、日経新聞が以下のデータを報道した。
「内閣府が12月24日発表した2020年度の国民経済計算年次推計によると、国別の豊かさの目安となる1人当たり名目GDPは2020年(暦年)で4万48ドル(約428万円)となり、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中19位だった」。
1人当たりGDPは27年に韓国に抜かれる
日本は2000年時点でルクセンブルクに次ぐ世界第2位だったが、この20年間に米、独、英に抜かれ、お隣の韓国は22位と日本に迫っている。この日経記事は日本経済研究センターの予測も掲載、「日本の1人当たり名目GDPは27年に韓国、28年に台湾を下回る。高齢者人口の増加に加え、デジタル化の遅れに起因する労働生産性の伸びの弱さが主因だ」と報じている。変動する為替レートを実際の取引に調整した「一人当たり購買力平価GDP」でみても、日本は台湾(15位)、ドイツ(18位)、韓国(28位)にすでに抜かれて33位にランクされている。
他にもいくつかの指標がある。日本のGDPは米中に次いで世界第三位の規模を確保しているが、世界経済における比率は90年代の15%から5.7%に低下。スイスのビジネススールが毎年発表している「国際競争力ランキング」で日本は1989年から4年間、アメリカを抜いて第1位だったが、その後順位を落とし、2019年版で30位に後退。かつて世界でもトップクラスだった労働者の所得水準もOECD加盟国中22位と韓国の後塵を拝している。反対に国の借金(債務残高)でみると、日本(対GDP比)は20年末で266%となり先進7カ国(G7)中最悪で、ベネズエラ、スーダンに次ぐワースト三位。
企業の力も凋落
日本経済の原動力となってきた企業の力はどうか。世界時価総額ランキングでみると、1989年に上位50番以内に日本企業は32社もランクインしていたが、最新の22年版では50位以内にトヨタ自動車1社のみ。アメリカのビジネス誌『フォーチュン』が毎年発表しているグローバル企業の収益ランキング・ベスト500で見ると、1989年に日本企業は111社もランキング入りしていたが2019年版では52社に減少。国際的に注目度の高い論文数で見ると、20年前は4位、10年前は5位、そして19年には10位に後退。かつて世界のトップを走り続けた鉄鋼、造船、家電、半導体産業の凋落も著しい。
このデータをどう受け止めるべきなのか。
もちろん米、中に次ぐ第3位のGDPを確保し、外貨準備高は1兆4000億ドルと中国に次ぐ2位の規模で、対外純資産高は356兆9700億円(2020年末)と、30年連続で「世界最大の債権国」の地位にある。人口5,000万人以上の国で比較すれば日本の一人当たりGDPは購買力平価換算では世界第6位。そう考えると、日本は依然として「世界で有数の経済大国」との評価も可能だろう。
大国意識が目を曇らせている
しかし、上述の凋落のデータを冷静に眺めると、「日本は経済大国」であるという評価は日本人の思い込みによる“幻想”であるという現実を突きつけている。1970-80年代の高度成長期に形成された『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(エズラ・ヴォーゲル著)との意識がいまだに色濃く残っており、それが日本経済を見る目を曇らしていることに気づくべきだ。とくに80年代の成長期、ハイテク景気、バブル景気の時代に青春を過ごした50歳代以降の人々にこの傾向は強い。世界と比較すると、日本人はそれほど豊かな生活を送っているわけでもなく、経済力も先進国の中程度との評価を受け入れるべきだ。そうした「不都合な真実」を直視したうえで、内外の諸政策を根本から再考してはどうか。