「実感なき景気回復」は輸出が主導
経済ジャーナリスト 蜂谷 隆
「景気が上向いている」と言われても、多くの人は「そうかなぁ」とか「言われてみれば」という感じだろう。こういうのを「実感なき景気回復」というのだそうだ。データを見る限り確かに昨年1-3月期から連続5期連続でプラス成長となっている。主導役は輸出である。昨年秋ごろから中国向けを中心に増加していることがGDPの押し上げ要因になっている。久方ぶりの輸出主導の景気回復となっているのだが、力強さに欠けるうえ継続性には疑問符がつく。
実質GDPにおける需要項目別寄与度を見ると、昨年7-9月期以降、外需(輸出-輸入)の寄与度が高まっている。輸出と輸入を分けて見ると明らかに輸出の寄与度が高い。安倍政権成立以降、円安誘導を続けてきたが時折外需の寄与度が高まった時はあったが、継続したことはない。データを遡ってみるとリーマン・ショックからの立ち直り始めた2009年から2010年までの以来なのでほぼ7年ぶりといえる。
中国向け輸出が急拡大
輸出の拡大はなぜ続いたのか?すぐに頭に浮かぶのは円安効果である。しかし、為替相場を見ると確かに昨年9月(月中平均)の1ドル=102円から今年5月の1ドル=112円と10円も円安になったのだが、この動きは昨年12月までで、その後は1ドル=110円台前半で動きは少ない。
そこで今年の1月から5月までの地域別の輸出先を見ると、輸出全体(世界向け)は昨年1-5月と比べ9.4%の伸びに対し、中国向けは17.4%も伸びている。中国に続くのがASEAN向けである。意外なのは景気が良いといわれている米国向けで、今年2月になってようやく前年同月比でプラスとなった。
中国向けの輸出はどの分野も伸びているが、特に一般機械22.3%、輸送用機器19.6%の伸びが大きい。これは中国経済の景気回復が背景にある。特に輸出は今年に入ってから急拡大している。1-5月の輸出は前年同期比8.2%増となっている。昨年は1年間で-7.7%なので輸出の伸びが果たしている役割は大きい。中国の輸出はアメリカ、EU、ASEANで半分近くを占めるが、その3地域向けの伸びが大きい。
水面下にある個人消費の回復
今後の日本経済の先行きだが、上向きを維持できるのだろうか。その際のポイントは景気回復のリード役となっている輸出が引き続き好調さを維持できるかにかかっている。問題は中国経済。5月から指標が下がり始め、早くも減速懸念が出ている。他の地域はどうだろうか。世界経済は全般的に上向く方向にはあるが伸び率は低い。期待されているのはEU向けである。フランスの大統領選でEU統合派のマクロン氏が勝利、その後の国政選挙でも安定多数を獲得したことで、経済も好転するという見方が増えている。
日本の内需はどうなのだろうか。経産省の鉱工業出荷内訳表を見ると、輸出向け出荷指数は昨年7-9月期から6ポイント上昇しているのに対して国内向けは1ポイントしか上がっていない。工場は少し活気づいているが、出荷の大半は輸出向けということなのである。
個人消費はどうなのだろうか。内閣府の「消費動向調査」によると消費者態度指数(一般世帯)は43.6と前年同月比で2.6ポイント改善している。「暮らし向き」2.2、「収入の増え方」1.3、「雇用環境」4.8、「耐久消費財の買い時判断」2.0といずれも上がっている。個人消費も少しずつ改善に向かっていることが伺える。
確かに少しずつ改善されていることは事実だが、同調査の指数を調査方法が変わった2013年4月を100としてみると、その後はずっと100以下だったことが分かる。昨年12月ころから少しずつ100を超える指数が出始めた程度なのである。つまり個人消費は水面下が続き、ようやく水面上に上がり始めたところなのである。個人消費は力強さを回復したとはいえない。