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2016/01/26

「グローカル通信」第23号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
水俣病公式認定60年を迎えて
                           東海大学経営学部教授 小野 豊和

 2016年は水俣病公式確認60年で熊本では展示会、講演会等様々の行事が計画されている。明治22年(1889年)に村制が施行された水俣村(当時の人口12,040人)に、明治41(1908)年、日本窒素肥料株式会社が発足(鹿児島県伊佐郡大口村に創業した曽木発電者と日本カーバイト商会水俣工場の合併会社、昭和25年から新日本窒素肥料㈱)。この日から今年は実に108年になる。確認されて60年といっても、それ以前の48年間は浄化しないまま工場排水を水俣湾に垂れ流し続けた原因企業の責任は重い。

 水俣湾周辺では市民の間で日本脳炎などに疑われる原因不明の奇病が流行り、魚介類を食べたことによる疑いを持つようになっていった。熊本日日新聞(昭和29年5月1日)に「猫がてんかん病で全滅」という記事が出たことで、工場排水で汚染された魚介類に問題があるとの噂が現実化していった。そのような状況下、昭和31年(1956年)5月1日、窒素附属病院の細川一院長が2人の奇病を発表した。6歳と3歳の女児について小児奇病と発表、これを熊本県衛生部が公式確認し、保健所では奇病対策委員会(保健所、水俣市、市医師会、私立病院、新日本窒素肥料㈱附属病院で構成)を設け、後に水俣市奇病対策委員会に改称、その年の暮れに54人(うち17人死亡)を水俣病と確認した。

 公式確認3年後の1959年、水俣病患者と原因企業チッソとの間で見舞金契約が結ばれたが、補償契約ではなかった。死者に30万円など当時の賃金水準に比べて極端に低い金額で、将来、原因が工場排水と決定しても新たな補償要求は一切しないという条項を飲まされていた。見舞金契約から10年後の1969年、押さえつけられていた患者が裁判を起こすことになる。これが水俣病一次訴訟である。4年後の1973年に判決が出て患者が全面勝訴となった。見舞金契約は公序良俗に違反するとして無効とされ、原因企業のチッソは控訴せず、患者の全面勝訴が確定した。この判決を基に、患者とチッソとの間で保障協定が結ばれ、患者1人当り1600万円から1800万円の賠償金の他、年金などが支払われるようになった。

 一次訴訟の後、水俣病認定申請者が急増すると、認定されるよりも棄却される人が多くなっていった。棄却された人や認定申請が保留となって結論が出ないままの人たちが裁判を起こすようになり、これが二次訴訟、三次訴訟となる。

 1995年、裁判所から和解勧告が出たことで、一時金260万円と医療費の個人負担が無い医療手帳が交付された。これで水俣病問題は終了したかに見えたが、ただ一つ和解を拒否して最高裁まで争った裁判があった。これが水俣病関西訴訟である。

まだ続く対立の構造

 2004年、関西訴訟の最高裁判決は、感覚障害だけでも水俣病を認めただけでなく、水俣病の被害拡大は、国と熊本県にも責任がある、というもので、国と熊本県の行政側がチッソと同じ加害者になった。患者の方が和解を求めたケースの最初の政治決着である。すると再び認定申請者が急増するだけでなく国家賠償訴訟も起こされることになり、行政側の熊本県として、もう一度政治決着してほしいと国に要望し、これが第二の政治決着となり、今度は和解でなく、議員立法の特別措置法を作って全面解決を再び図ろうとしたのである。

 2009年、特別措置法が、民主党政権が誕生した解散総選挙の直前の国会で成立する。救済の対象者は、一時金210万円と被害者手帖が交付されることになり、2012年7月末を申請受付締切りとした。申請者数は、熊本県でと鹿児島県を合わせて63,000人で、何人が救済対象者になったかは公表されていない。そして現在、救済対象者と認められなかった人たちが新たな国家賠償訴訟を起こし、現在も水俣病問題は全面解決には至っておらず、国と被害者との対立の構造になっている。

 対立構造の中、2007年に至ってようやく胎児性水俣病と認定された緒方正実氏(57歳)の生き方を紹介する。水俣病資料館の語り部の会会長で、2015年水俣開催の「全国豊かな海づくり大会」で、天皇、皇后両陛下に「水俣病は終わっていない」と伝えた人である。緒方氏は原因企業・自治体と闘ってきたが、自らの手で木彫りのこけしを作り各方面に寄贈する活動を行い「赦す」という境地に達したという。最後に緒方氏の詩を読んでいただきたい。

  苦しいでき事や悲しいでき事の中には
  幸せにつながっているでき事がたくさん含まれている。
  そのことに気づくか、気づかないかでその人生は大きく変わっ
  ていく。
  気づくには一つだけ条件がある。
  それはでき事と正面から向かい合うことである

【参考文献】緒方正美『孤闘—正直に生きる—』創想舎、2009年『熊本日日新聞』

10:33

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第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

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