東京近郊のベッドタウン生き残り競争
経済ジャーナリスト 蜂谷 隆
「東洋経済」1月28日号の特集「マイホームが負動産になる-持ち家が危ない」はおもしろかった。発売日の夕方、本屋の雑誌売り場の経済週刊誌の平積みの中で同誌だけが、断トツに低かった(つまり売れていた)のはサラリーマンの関心の高さを物語っているのだろう。
特集の中で目を引いたのは埼玉県毛呂山町の事例だ。東武東上線で池袋から1時間という立地条件で1960年代以降、一戸建ての開発が続いたが、今や埼玉県一の空き家率(18.9%)となり、値段を下げても買い手がつかない状況だという。1区画の狭さ(20-30坪)や4mという狭い道路という条件の悪さも重なっているようだ。特集では埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府などの事例が紹介されている。
こうした事例で共通しているのは、通勤時間が都心から1時間半~2時間と遠い、若い世代が大量入居し高齢化が進んでいる、地域に特徴(ブランド力)がない-などだが、狭いとか、駅から遠い、さらには自治体が有効な手立てを行わなかったなど個々の事情もあるようだ。
こうした現象は遠距離通勤の地域だけで起こっていると思われがちだが、近年は都心から20km、30km圏、さらには都内でも生じている。そのひとつが都内板橋区高島平団地である。ここは僕が若いころ(1970、80年代に賃貸と分譲)住んでいたところである。昨年行ってみたが様変わりであった。団地はずれの商店街が軒並みシャッターが降りていたのは想像の範囲内だったが、中心部にも及んでいたのにはビックリした。通りを歩く人も少なく子どもの声も聞こえないこともあり、団地全体に活気がない。高齢化率39%というのだから、もっともなのかもしれない。
高島平は都営三田線で都心まで30分の距離にある。私鉄と接続しておらず、始発駅に近いのでラッシュ時にも座って通勤できる。保育園は完備という好条件なのに若い人はあまり住もうとしないのは人気がないからだろう。ブランド力がない(というより負のイメージがある)ためだと思う。
これらから言えることは、日本は人口減少が始まっているが、人口が増加している東京圏でも減少する地区が出てきていること、しかも減少地区は高齢化が著しいことである。高齢者が増え、空き家が増え、地価が下がり商業施設も出て行くという現象がじわじわ広がっているのである。都内や近郊は勝ち組と言えそうだが、そうした地域でも条件の悪いところから「浸食」が進んでいるということなのだろう。
新規の住宅開発はセーブすべきだ
ところが勝ち組になっているところでは、マンションや戸建ての新築が続いている。負け組地区にはうらやましい限りだろう。しかし、他方では空き家が増えているのである。国土交通省によると住居を壊して建て直す比率である再建築率は全国で9.1%、東京圏でも12.1%に過ぎない。しかも調査を始めた1988年(全国で22.7%)以降、再建築率は一貫して下がる傾向にある。
空き家が増えているということは住宅市場が不足から余剰になっているわけだから、まずは新規の住宅開発は何らかの規制が必要である。ところが事態は逆方向に進んでいるのである。
こんな事例がある。横浜市港北区の東横線沿線の駅から歩いて20分、横浜線の駅から15分、しかも新幹線のすぐ脇で上に送電線が通っている土地を地元の不動産業者が開発、10数戸売り出している。建坪16坪で1階は駐車場と玄関、階段、風呂場だけ。2階はリビングキッチン、3階はワンルーム(分割可)で約4500万円だ。いずれ負動産になるような物件である。
人口が増えている東京圏でも2020年がピークでその後は減少に向かう。とすれば何とか勝ち組に残ろうと考えるよりも人口減少になっても生き残れる街づくりに転換する以外ないはずである。調べていたら埼玉県川越市では、10年前に市街化調整区域を規制緩和して宅地開発を行ったが、増加しすぎたため規制を元に戻したという事例があった。先々のことを考えたのであろう。ベッドタウン生き残り競争は厳しくなるだろう。自治体の「先を見る目」が問われる時代になったのではないか。