政府の働き方改革「9項目」に民進党はリアルな対案を
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林 良暢
9月26日に召集された臨時国会で、所信表明演説に臨んだ安倍首相が、長期政権への意欲をにじませた政策のキーワードとして掲げたのは『未来への投資』である。とりわけアベノミクスの加速と一億総活躍のための労働制度改革を強調し、新たな成長をめざす大きな鍵は「働き方改革」であると述べた。翌27日、首相官邸で開催した「働き方改革実現会議」の初会合に出席した安倍首相は、榊原経団連会長、神津連合会長の労使の代表や女性アイドルグループ「おニャン子クラブ」の元メンバーでタレンドの生稲晃子さんなど有識者議員を前に挨拶、9項目にわたる検討課題を提起して今年度中に具体策を盛り込んだ実行計画を仕上げるよう「スピード感をもって国会に関連法案を提出する」よう要請した。
安倍首相が働き方改革の検討課題として述べた9項目とは、次の通りである。
安倍首相の「働き方改革」の9項目提案
①同一労働同一賃金による非正規雇用の処遇改善
②賃金引き上げと労働生産性の向上
③36協定の見直しなど労働時間に上限規制
④転職・再就職支援、格差を固定化させない教育
⑤テレワーク、副業・兼業等の柔軟な働き方
⑥女性・若者が活躍しやすい環境整備
⑦高齢者の就業促進
⑧病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立
⑨外国人材の受入れの問題
首相官邸HP第1回働き方改革実現会議配布資料「安倍総理挨拶」
これらの政策課題は、昨年の規制改革会議の「規制改革に関する第3次答申」(2015年6月)と「同第4次答申」(2016年5月)に基づき「日本再興戦略」(15・16年)に盛り込まれていたもので、それを今回の「働き方改革実現会議」で9項目に絞り込んで実行に向けて討議しようというわけである。
この9項目のうち、すべてをいっぺんにも片付けるわけにいかないので、安倍官邸が来年の通常国会に法改正を含めて狙いを定めているのは、筆者の推察だと①の「同一労働同一賃金」と③の「労働時間に上限規制」であると考える。この2つは、いずれも労働基準法の改正が絡む課題である。
①の「同一労働同一賃金」については、別途内閣府と厚生労働省共管の検討会で先行議論を鋭意進めている。一方、③の「労働時間に上限規制」は、既に2015年4月に安倍内閣が労働時間ではなく成果に賃金を払う「脱時間給」(ホワイトカラー・エクゼンプション)の労基法改正法案を国会に提出したが、今も店晒しになったままで、ここにまた「長時間労働の上限規制」を強化する法案を出すことに対して、与党内からも制度の整合性を問う声が出ており、さらに政府はどっちを向いているのかと野党から追及されかねない。
具体的「対案」を考える
だが、民進党の蓮舫・野田新体制が「選択される政党として、『提案』をもって国民の声に応えたい」とするなら、こんな揚げ足取りではなくて「脱時間給」と「労働時間の上限規制」に対する整合性のある具体的な『提案』をしてもらいたい。そんな手品みたいなことができるのか。
妙案がある。手品の種は、③「労働時間の上限規制」に隠されているインターバル時間である。インターバル時間とは残業を含めた終業(退社)時間から次の日の始業(出勤)時間までの間隔のことで、EUでは統一労働指令で加盟国に11時間の「休息時間」を義務付けている。ただし、EUでは休息時間対象者のオプトアウト(適用除外)条項がある。このオプトアウト(適用除外)対象の現場の労使協議に委ね、この適用除外者を「脱時間給」の対象者にするのである。
こうすれば、いま提出されている政府改正案の「年収1000万円以上」という根拠薄弱な金目の基準よりははるかにましである。いやしくも労使協議の協定というリアルな場で労働組合のチェックを経て、会社・組合そして何よりも本人同意を前提した修正提案すれば、対象者は限定され公正が担保されよう。但し、日本でも情報労連や電機連合の傘下で、「インターバル時間」制度が先行導入されているが、10時間とか9時間とかがあったりして、これでは国際労働運動の舞台に出て恥ずかしい思いをするので、「インターバル時間」ではなくてEU並みの11時間の「休息時間」にすることを徹底するよう、労使共に努力することを強く要望したい。