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2016/09/27

POLITICAL ECONOMY 第77号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
-福島県南相馬市からの報告-
避難解除後の福島浜通り
                      
           一般社団法人 えこえね南相馬研究機構理事 中山 弘

 7月12日、福島県南相馬市南部の小高区などに出ていた原発事故による避難指示が解除となった。午前0時、どこかに人が集まってカウントダウンするわけでもなく、住民の多くは静かにそれぞれの場所で解除の夜を噛みしめていた。昨年から準備宿泊が始まっていたので、解除になったからといって目に見えて何かが変わるわけでもない。すぐに人が戻ってきて町が賑わいを取り戻すわけでもない。これからに対する期待と不安が入り混じった複雑な気持ちのようだった。

 解除は、福島県楢葉町や葛尾村などについで6例目だが、対象人数は3487世帯、1万807人とこれまでで最大の規模である。当初は4月に解除する計画だったが7月にずれこんだ。海側の線量が低い地域や小高駅周辺で店を再開したり、人々が集まる場づくりをしてきた住民たちは早期解除を望んだが、山側の線量の高い地域の住民や除染の遅れに対する不安から解除に反対する声もあり、意見の調整に時間がかかった。

 7月末に開催された地域の伝統行事である相馬野馬追では、6年ぶりに小高火祭りが復活した。野馬追を終えて凱旋する騎馬武者に対して2000個の火の玉を農道にかかげて迎え入れる。この地域で最大規模となる4000発の花火も打ち上げられ夜空を照らしたが、これを見た人たちは、やっとここまで来たという感慨と同時に復興に向けた想いを新たにする人が多かったことだ
ろう。

避難解除はしたものの

 9月15日現在、小高区の居住者数は826人となっていて、対象人数の8%弱にとどまる。戻ってきた住民のほとんどが子育てを終えた50~60代以上である。若い人たちは避難先で新たな仕事に就いたり、子ども達も学校や友達に慣れたりで、戻りにくい事情がある。また高齢者の中にも、5年以上暮らしてきた仮設住宅の生活や人とのつながりに馴染み、向こう三軒両隣りが居ない自宅に戻ることに不安がる人もいる。

 一方、国や東電は住民への賠償や生活支援を段階的に打ち切る方針であり、避難指示区域の住民に月額10万円払ってきた精神的損害への賠償は18年3月で終わる。免除されていた固定資産税、国民保険料や介護保険料も次第に自己負担に切り替えられていく。仮設住宅の住民の多くは農業も営んできた高齢者で賠償金がなくなればわずかな年金しか現金収入がなくなる。これまでは自給自足で補ってきた暮らしが成り立たなくなる人が出てくる。自分たちが起こしたものではない原発事故にもかかわらず、将来への不安は尽きない。

 もちろん、帰還を望む住民も居るので、本来なら線量の高い「居住制限区域」とそうではない「避難指示解除準備地域」とを分けて解除を段階的に進めるべきで、これを望む住民も多かったのだが、そうはしなかった。

 東電によると、これまでの原発事故に伴う避難者などへの賠償総額は6兆2000億円を超えたそうだが、政府は「帰還困難区域」を除き、できるだけ早く避難指示を解除する方針である。経済を最優先させ、人の暮らしは二の次という政治姿勢がここでも顕著に表れている。

地域再生に向けた取組み

 解除に伴い再開した事業所も多い。小高駅前の双葉屋旅館もその一つである。全15室の旅館だが、若女将はこれまでも町の賑わいを取り戻すために、アンテナショップを開いたり、小高駅や駅前通りの歩道に花を植えたり、いろいろな取組みをしてきた。他にも、鮮魚店、すし屋、飲食店、理髪店など、次々と営業を始めている。暮らしに必要なお店の再開を望む住民と、帰還者が少ないと経営が成り立たない事業者とは「鶏と卵」の関係だが、先への期待を込めながらの取組みが進んでいる。

 新たな生業をつくりだしたいとチャレンジする人たちもいて、今年6月に小高駅近くにアクセサリー工房ができた。女性に魅力のある職場をつくることで若い人を呼び寄せたいという想いで立ち上げた。これを起業した地元の若者は、「小高は人口がゼロからスタートするフロンティア。地域の悩みが100あれば、そこから100の仕事が生まれる。」と前向きに取り組んでいる。このような若い人たちの活動にも期待したい。

 来春には「小高商業高校」と「小高工業高校」の2つの高校が統合されて「小高産業技術高」として新たなスタートを切る。これと同時に、小高の小中学校も再開される予定で、今は南相馬市北部の鹿島区の仮設校舎で学んでいる子どもたちが、小高に戻ってくる。子どもたちの笑顔が増えれば、まちも元気になると楽しみにしている人も多い。

 また、小高に戻る人を待っているだけではなく、小高を「住みたいと思える魅力ある町」にして、外から来る人を増やす方法もあると思う。南相馬市には震災以降にボランティアをしたり医療などの支援に来たりして、この土地の他所の人を温かく受け入れる風土や環境に惹かれて住み着いた人も多い。相馬中村藩は江戸時代の大飢饉を契機に約1万人もの移民を導入してきた歴史もある。復興予算を、住みたいと思う人が増えるように、また住めるような施策にふんだんに使うことを考えたら良いと思う。それには、インフラ整備や企業誘致だけでなく、個人の草の根の取組みにも政治が目を向け、心配りすることが大切だと考える。 

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【陳謝】
4月以降のナンバリングを間違えていました。旧「グローカル通
信」の分(25号)を加えていませんでした。今号から77号とし
ます。

11:09

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第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


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第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

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