日誌


2017/07/03

POLITICAL ECONOMY 第98号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
街が「なかま食堂に」
                                                               まちかどウォッチャー 金田 麗子 

   商店街のレストランというより、食堂と呼ぶ方がぴったりの店でコーヒーを飲んでいると、小学生が3人2階に上がって行った。

 夏休みこの食堂の2階で、宿題を手伝う活動が行われていて、200円と空の弁当箱を持参すると、昼食が食べられるという。

 横浜市内のこの地域で、保育園、障がい児童通所支援事業、学童保育などの活動を多面的に行うNPO法人が主催し、退職した教師や学生のボランテイアを募って行っている活動だ。

 なぜその会場がこの食堂の2階なのかというと、今年4月よりら食堂とNPO法人が共同で月1回、いわゆる「子ども食堂」としての「なかま食堂」を開催するようになったからである。

  中学生以下無料、高校生以上200円+♡で、子どもや同伴の親だけでなく、地域の大人も参加歓迎。120名を超える参加者という盛況ぶりだ。

  住民からみると、この店は以前から地域には無くてはならない存在だった。甘味、定食、酒までなんでもあるだけでなく、弁当や総菜を安価に販売していて、独居や少人数世帯は大助かり。日替わりの惣菜は300円前後。老人(私)だと2日にわたって食べられる量。

地域の食堂とコラボ

  店を愛用するうちに、夕食をとっているシングルマザーらしき一家が、学校の行事のための弁当を依頼したり、仕事帰りの女性が、自宅用の介護食を受け取って帰ったりするのを見かけた。

  地域に存在感を持っている食堂と、商店街周辺に数か所拠点を作り子どもの支援を行っているNPOのコラボレーションが、成功した事例と思う。

  しかも商店街の八百屋、肉屋などが材料を提供したり、住民からお米などの寄付があったり、ボランテイアで参加したり、地域が活動を支え、なにより一緒に食べている。

  「子ども食堂ネットワーク」によると、子どもの6人に1人が相対的貧困という現状の中で、全国で400〜500件の団体が活動しているという。もちろん貧困問題の根本的な解決にはならないし、本当に必要な子ども届きにくい、行くことがまわりから偏見の目で見られる、開催している大人の自己満足などの批判があるのは事実で、私自身も思っていたことだ。

「なかま食堂」で地域に変化

  でも今回、「なかま食堂」を開催することで地域に変化が生まれ、新たな関係性が形成されていくことを、身の回りで実感して悪くないなと思った。

  見回すと界隈には、自分も含め、いわゆる「標準的な世帯」ではない、多種多様な人が住んでいる。2015年の国勢調査によると、一人暮らし世帯は全体の3分の1という。「子どもの貧困」や「独居老人」に限らず、家族がいてもいなくても、「なかま食堂」的な存在が、誰にとっても必要になったといえるのではないか。

  地域の商店街は、横浜でも古い伝統のある商店街だが、空き店舗が目立っていた。最近そこに、福祉系のNPO法人や一般社団法人のカフェが開店していて、安いランチを出したり、それぞれに常連が出来つつある。店に行けば誰かと会話したり、ご飯を食べたりできるからだ。

  商店会の有志が惣菜店を出し、それぞれの得意料理を曜日を決めて販売している。路上には、数か所ベンチが置いてあって、夕方になると座ってアイスを食べたり、缶ビールを飲んでいる人を見かける。

  「食堂」という形態だけでなく、孤立せずに済む、地域に小さな経済活動が展開できれば、生きやすいなあと実感している。


10:30

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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