日誌


2023/07/20

POLITICAL ECONOMY第245号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
中国経済に異変
   NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田 芳年
  
 『週刊エコノミスト』が9月5日号で「中国危機」を特集、世界経済の大きなリスクとして急浮上している中国の異変を取り上げている。この7月から8月にかけて国際メディアでは相次いで「中国異変」を伝える報道が相次いでいる。年初には「中国政府は新型コロナウイルス対策の大幅な緩和に踏み切り、23年に景気を回復させると約束した」(ロイター)として、中国経済の急回復を予測する見方が支配的だった。今年2月に公表された三菱総研の内外経済見通しでは「中国経済もゼロコロナ政策解除および成長重視の政策運営への転換で成長が上振れる見通しだ。背景には低成長にとどまった22年の反動に加え、ゼロコロナ政策の解除による経済活動の正常化、並びに中央経済工作会議で公表された成長重視の政策運営方針がある」と解説していた。それがなぜ「中国危機」と報道されるまでに急変したのか。

強まるデフレ懸念

 中国国家統計局が7月に発表した今年4-6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比で6.3%増だった。前期の4.5%増は上回ったが、市場予想の7.1%増を下回った。昨年4-6月期は上海ロックダウンなどコロナ禍で0.4%増と大幅に落ち込んでいた時期で、その反動増が期待されていたが想定を下回った。製造業を支える輸出は5月に前年比7.5%減、6月12.4%減、7月14.5%減と連続減を記録、8月も8.8%減と勢いがない。7月の個人消費も前年同月比2.5%増にとどまり、民間企業は景気の先行きが不透明なことから投資を控えており、7月の人民元の新規融資増加額は同50%減少、2009年以来の低水準になったと報じられている(中央日報)。消費の弱さを反映して中国の消費者物価指数(CPI)は前年同期比0.3%減、生産者物価指数(PPI)は同4.4%下落。8月の製造業購買担当者指数(PMI)は5カ月連続の縮小を示し、中国経済のデフレ懸念が強まっている。

 国際経済・金融通信社・ブルームバーグは8月末の配信で、「JPモルガン・チェースは中国の2023年経済成長率見通しを4.8%に引き下げた。従来予想は5%だった。7月のデータが失望を誘う内容が多かったことを理由に挙げている」と報道、「今年の世界経済成長の3分の1をもたらすはずだった中国経済はここ数カ月に大きく減速し、世界各地で警鐘が鳴り響いている」と伝えている。

抱える構造問題が深刻化

 8月中旬、バイデン米大統領が政治資金募金行事で、中国経済をいつ爆発するかわからない「時限爆弾」に例えたことが話題を呼んだ。米ウォール・ストリート・ジャーナルは8月22日付の記事で「中国が貧困から抜け出し、大国としての地位を獲得した経済モデルは、もはや持続可能なものではない。単なる経済の低迷期ではなく、これは長い時代の終わりかもしれない」と指摘。中国経済の不振は一過性のものではなく、長期的なトレンドとの衝撃的な見方を示し、国際マーケットでは中国の構造問題に焦点が当たり始めている。

 その代表的事例の一つが人口減少と高齢化。中国国家統計局の統計では2022年末の総人口は14億1175万人で、21年末から85万人減った。61年ぶりの減少である。22年の出生数は106万人減の956万人となり、2年連続で1949年の建国以来の最少を記録した。政府は産児制限を事実上廃止したが、少子化に歯止めがかからない。加えて、高齢化が進み、65歳以上の高齢者が2億1千万人と最多を記録した。中国社会では高齢化に伴う、医療、介護、年金などの諸制度が不十分で、これからその重圧が押し寄せる。     
 
  二つ目は不動産不況。この数十年間、中国経済の高成長は政府の公共投資と民間の不動産投資に支えられてきた。だがコロナ禍の影響と消費者の貯蓄志向の高まりで、不動産需要が低迷、不動産業者の負債が雪だるま式に拡大、不動産開発大手の碧桂園、恒大集団が相次いでデフォルト(債務不履行)の危機に陥っている。この債務危機は地方政府、信託会社、シャドーバンクなどが絡んでおり、金融危機の引き金になりかねないとの指摘も生まれている。

 三つ目が青年層の雇用問題。6月に発表された雇用統計では16~24歳の青年失業率が21.3%と過去最高を記録した。ところが政府は7月の青年の失業率の発表を急遽、中止。市場に疑心暗鬼が飛び交った。公式発表の数字では就職を諦めた若者を統計から外しており、親と同居しながら生活する「寝そべり族」やニートと呼ばれる人たちを失業者に含めると、真の失業者は2200万人に上り、失業率は46.5%に達するという(北京大学国家発展研究院の張丹丹副教授の試算「財新」)。ほぼ二人に一人が失業という驚くべき数字だ。

 このほか、内需の低迷、インドの台頭、米中対立の激化などの要因を指摘する意見も多いが、 8月31日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事、「中国経済再生を阻むイデオロギー」が示唆に富む。同記事では「最高指導者である習近平国家主席は欧米流の消費主導による経済成長に対し、哲学的で根深い反対論を抱いている。習氏はそのような成長は浪費が多く、中国を世界有数の産業・技術大国に育てるという自身の目標とは相いれないと考えている。そのため米国や欧州のような景気刺激策や福祉政策を導入することは考えにくい」と指摘する。中国国営通信の『新華社通信』は「中傷や抑圧で中国市場の魅力は変えられない」と強気だが、中国経済の低迷は長引く兆しを見
せている。


18:34

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回の研究会は決まっておりません。決まりましたらご案内いたします。

 

これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告