日誌


2024/11/28

POLITICAL ECONOMY第276号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
労組の組織率低下の中で浮上する「労働者代表委員会」必要論
         
       労働調査協議会客員調査研究員 白石利政

 2024年6月 30 日現在の労働組合員数991.2万人、組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は16.1%。前年より0.2 ポイント低下、3年連続で過去最低となった。半世紀前の1970年と比べると組織率は19.3ポイント、組合員数は163万人と、ともに減っている。母数となる雇用者数が、1970年の3,277万人から、2024年は自営業や家族従業者が雇用者に「流入」したため、6,139万人へと大幅に増えた。組織率の減は雇用者の大幅増に組織化が追いついていないことを示す。

 労働組合についてはウエッブ夫妻の有名な定義がある。「労働組合とは、賃金労働者が、その労働生活の諸条件を維持または改善するための恒常的な団体である」。この記述に「この型の団体は…2世紀以上にわたってイングランドに存在してきたものであり、突如として十分に発達したかたちで、この世に現われたとは、とうてい考えられない。…しばしば労働組合の先租と称されてきた団体」があると続く(『労働運動の歴史』) この「労働組合の先租」はCombinationと呼ばれていたらしい。どのような目的で、誰がどこで組織を作り、それを運営するかで、多様なタイプが誕生する

 戦後日本で、労働者のいるところを席巻したのは正規従業員による労職混合の企業別組合であった。私が労働調査の道に入った1970年ごろは「ものづくり」日本に勢いがあった。OECDは高品質で強い国際競争力に注目し、日本の労使関係にも関心を向け1975年に調査団を派遣した。「日本の企業は、単に利潤獲得の手段としてではなく、それ自体一つの社会とみなされる」。日本の労使関係制度を特徴づけているのは「三本の柱」、終身雇用、年功賃金、そして「一般組合員の最大の関心事であるパンとバターの問題を優先」、「産業平和の維持に貢献」している企業別組合であると報告している。ただし、このような特徴は主として大企業に関わることだと断っている(「労使関係制
度の展開―日本の経験が意味するもの」 1977年)。ちなみに1975年の製造業500人以上の組織率は83.6%と高かった。企業別組合は「経営側と正規従業員の双方が利益を得る」仕組みの構成要素ということである。

非正規労働者4割へ、企業別組合の基盤揺らぐ

 その後、日本経済のサービス化に伴い職業構造が変化。生産工程・労務作業者のシェアは1971年の32.3%が1997年は30.1%、2017年は21.1%へと一貫して減少する。日経連は1995年、総人件費の削減を図るため雇用ポートフォリオ(構成・組合せ)の考え方に立った対応(長期蓄積能力活用型 高度専門能力活用型 雇用柔軟型)を提案した(「新時代の『日本的経営』」)。

 バブルの崩壊(1991年)、リーマンショック(2008年)を経て、低成長期に直面すると、企業は「雇用柔軟型」の採用に着手。政府も規制緩和政策により支援。雇用者に占める非正規労働者は1995年の2割が2003年に3割を超え2023年は4割近くにまで増大(図参照)、このことは企業別組合の「市場」縮小につながった。民間で組織率の高い1000人以上でも2005年に過半数を切り2024年は4割まで減少した。

 2023年末の「内部留保(利益剰余金)」は600兆円を越え、一方、一人当たり実質賃金は1991年を100とすると2020年は100.1で、30年間横バイで推移した。「経営側の独り獲り」、ワーキングプア大量出現となった。労働組合のナショナルセンター・連合結成からの時期と重なるだけに残念な思いが拭えない。

 労働組合の組織率低下は「法定基準の解除」の問題をクローズアップさせている。労働法制では仕事の「給付条件」について、使用者の濫用防止することを意図して、事業場の過半数労働組合、それがない場合は過半数代表が関与して「法定基準の解除」を行う規定がある。1947年当初は、時間外・休日労働に関する労使協定と就業規則の意見聴取の2項目だったが、現在は労基法で19項目(すべて「法定基準の解除」)、労働関連法(労基法以外)25項目(うち5項目が「法定基準の解除」)に追加・拡大している(福井祥人『レファレンス』885号 2024年9月)。

形骸化する労働者代表制度

 事業場での労使コミュニケーションの必要性が高まっている反面、かねてから労働者代表の選出、職場の意向反映には形骸化や問題点のあることが指摘されている。そこで、過半数未満労働組合と未組織セクターでは、労働者代表制度を見直し新たに「労働者代表委員会」を設置することが検討されている。

 その必要性については労使一致しているが違いもある。連合は「多様性、透明性、公正性の確保や労働組合との役割分担の明確化等をはかる」ことを主張(最終見直しは2021年)。経団連は、条件付きとはいえ裁量労働制や高度プロフェショナルの対象業務に「労働時間制度のデロゲーション(適用除外-引用者)」や就業規則の作成時の「意見聴衆等の単位の見直し」などを求めている(2024年)。厚生労働省が2024年12月24日に取りまとめた有識者(労使の代表は未参加)による「労働基準関係法制研究会」報告書では、過半数労働組合のない職場での「過半数代表者」については「長期的な課題」として取りあげ
るにとどまっている。

 今後、「労働者代表委員会」の法制化へ向けての議論が始まると思うが、労働条件分科会で労働契約法の議論に携わった長谷川裕子氏 (当時の連合・総合労働局長)の体験からの意見、「理想を掲げたつもりが、議論の如何で途方もないところに走っていく可能性があることを感じている。今は労働者が置かれている状況を冷静に分析し、我が国の労働者が真に幸福になる政策を打つことが求められているのではないだろうか」には大切なことが含まれているように思う(月刊「労働調査」2008年1月号)。

労働者が並立して利益を分け合う時代

 これからは、同じ企業で多様な労働者が働き、「経営側と多様な労働者が並立して利益を分け合う」時代。過半数労働組合がない事業場の「労働者代表委員会」が多様な労働者の発言権確立の基盤となることを願う。そのなかの未組織セクターから労働組合を指向するところがでてきて欲しい。産業別組合やナショナルセンターの支援活動の出番だと思う。    

13:05

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

LINK

次回研究会案内

次回の研究会は決まっておりません。決まりましたらご案内いたします。

 

これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告