日誌


2016/12/22

POLITICAL ECONOMY 第85号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
南相馬をロボットで活性化                     
              一般社団法人えこえね南相馬研究機構理事 中山 弘
 
 イノベーションコースト構想というのをご存じですか?震災、原発事故によって失われた福島県浜通りの産業・雇用を回復するため、廃炉やロボット技術に関連する研究開発、エネルギー関連産業の集積、先端技術を活用した農林水産業の再生、未来を担う人材の育成強化などを通じて新たな産業・雇用を創出しようという取り組みです。

 南相馬市では、これに呼応して、原子力に依存しない再生可能エネルギーの導入、ロボット産業協議会の設立、産学官連携によるロボット開発などを推進してきました。昨年夏にはロボット産業推進室を設置し、ロボット産業の拠点施設である「ロボットテストフィールド」と「国際産官学共同利用施設」の誘致に取り組みながら、「ロボットのまち」を目指しています。

南相馬市のロボット推進の現状

 津波で被災した沿岸部に、「ロボットテストフィールド」として70haの用地を確保し、災害対応、インフラ点検、無人航空機や災害対応ロボット等の試験や、ロボットの性能が評価できるような設備が検討されています。ここには、試験飛行用グラウンドや崩壊橋梁・崩落トンネルといった模擬施設、水没模擬市街地等の施設も整備される予定です。また、ロボット実証区域として、災害対応ロボットやインフラ点検ロボットの実証試験や操縦訓練の場も提供していきます。

 昨年11月には、ロボットを通じた観光交流の拡大を目的にドローンレースが実施され、2000人ほどが来場しました。会場では、パイロンの間を飛び回るエアレースや、ドローン体験、ドローンによる神旗争奪戦も開催されました。さらに12月には、完全自律制御による長距離荷物搬送の実証試験が行われ、ドローンを活用した配送サービス専用機が海岸線約12kmの区間を飛行し、荷物を届けることに成功しました。

「ロボットのまち 南相馬」への期待

 南相馬市は「ロボットのまち」の実現に向けて、先に述べた取組みの他にも、企業や研究者のコラボレーションによるメイドイン南相馬のロボットづくり、介護ロボットの実証や、地元企業の技術支援、セミナーや研修をはじめとした人材育成を推進することが検討されています。

 ただ、今のところハードが先行していて、市民の間にはあまり浸透していないように感じます。ロボットの本来の目的は、人を助け、人が足りないことを補い、暮らしを豊かにすることです。

 ハウステンボスは、「ロボット王国」をつくり、世界のロボットが見られる場所を目指して、「変なホテル」などテーマパークとしてのエンターテイメント性、観光ビジネス都市としてロボットを広めようとしています。

 南相馬も暮らしに根付いた新たなロボット文化文明の発祥の地になったら良いと思いますが、この地には次のようなポテンシャルがあると感じています。

・高齢化が一気に進み、生活支援ロボットのニーズが高い
・働く人が少なく、有効求人倍率が高水準
・人口減少が進む中で、なにか新しいことをやらないと衰退
 するという危機感がある
・福島原発から20km圏内では道を歩く人が少ないため、自動
 走行や買い物支援などをやり易い
・もともと精密工業の基盤があるので、小回りの利く技術開
 発がやりやすい

 そこで南相馬に、生活に密着したロボットを一堂に集め、介護施設、個人の家、一般道路、いろんなところで、ロボットを使えばよいと思います。先駆的な取り組みをすることで、そこにいろんなものが集まってきて交流がさらに進むことが期待できます。

 また、ロボットを動かすにはエネルギーが不可欠ですが、南相馬市は原発に頼らない都市宣言をし、2030年代初めにエネルギー自給100%を目指しており、持続可能な未来社会を示すことができます。 

 ということで、ハードのみならず、ソフトも含めた総合的な「ロボットのまち」を目指す取り組みが、住民も参加しながら一体となって進められた良いと考えています。


06:42

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告