日誌


2021/07/08

POLITICAL ECONOMY第195号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
大規模買収事件後の廿日市市の市議選

                            労働調査協議会客員調査研究員 白石利政

 廿日市市は広島県の西部に位置し、広島市と大竹市の間に挟まれ人口は116,925人(7月1日現在)。廿日市市に佐伯町、吉和村、少し遅れて大野町と宮島町が平成の大合併で発足した。この3月に市議選が、そして4月には参議院補欠選が実施された。市議選は私が横浜から移って2回目、無所属議員が多いだけに投票に戸惑うが、投げ込まれる議会活動報告などから候補者の活動ぶりがみえてくる。今回の選挙結果と当選議員の「属性」などから見えてきたことを綴ってみた。

投票率は46.71%で過去最低を更新

 市が掲げた今回の選挙スローガンは「愛そう廿日市市、行こう、投票」である。市議の定数は28、立候補したのは34人。現職5人(66~73歳)が引退、新人11人が出馬した。地元の選挙通の散歩仲間は「新人は頑張るけぇ、結果が楽しみだ」といっていた。今回の選挙戦について、地元の中國新聞は「各候補は、選挙期間中に選挙カーなどで市域を巡り、子育て支援の充実や、中山間地域の活性化、農林水産業の振興などを訴えた。19年7月の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件などを受けて、議会改革の必要性を強調する候補者もいた。複数の候補者は、議員定数の削減を打ち出した」(3月29日付け)と。
 
 3月28日投開票された。投票率は46.71%、2009年の58.52%、2013年の53.50%、2017年は過半数割れの49.91%、これを3.20ポイント下回った。市の選挙スローガンもむなしく過去最低を更新した。この投票率は地域による差が大きく、有権者の少ないところで高い(廿日市44.67%、佐伯53.57%、吉和71.16%、大野48.04%、宮島8.22%)。

地元代表、市議「専業」は約半数

 開票結果、現職20人(2回当選2人、3回当選6人、4回当選4人、5回当選6人、6回当選3人)、元職1人、新人7人の新議員が決まった(4年前の新人議員は公明党からでた1人のみ)。女性議員は6人で2割(前回同様)。当選議員の平均年齢は60.6歳(最年少は29歳、最年長は76歳)。職業は市議「専業」が13人、兼業が9人(自営業者7人 団体役員1人、団体顧問1人)、その他が6人。市議「専業」が約半数を占めている(選挙公報や選挙ドットコム情報を参照)。党派別では、無所属が最多の23人、ついで公明党3人、共産党1人、幸福実現党1人である。連合広島は無所属議員のうち1人を推薦した。

 当選議員の居住地域は、廿日市15人、大野7人、佐伯3人、吉和2人、宮島1人で概ね有権者数と対応して
いる。近くの魚屋のご主人いわく「大野からでた候補者はみな当選した」。地元の代表とみての感想と思われる。この例外は吉和でみられ、有権者の少ないこの地域から2人の当選者がでて

いる。うち1人は26歳で当
選し現在52歳の現職で地域の投票数の3.5倍、もう1人は公明党の新人で同じく4.3倍の票をだしている。地元に加え他地域を睨んだ選挙戦を展開していることになる。

 得票数からは、新人の奮闘
ぶりが窺える。上位8人に4人が入っている。現職20人の得票数の合計は前回に
比べ856票の減、新人は現職の票を食ったようだ(図表参照)。

4年後の市議選は新人議員増か?

 今回の選挙で新人が四分の一を占めたが、このことは年齢の若返りを意味しない。当選議員全体の平均年齢は4年前に比べ0.7歳下がっただけである。

 しかし4年後の選挙でも新人議員は増えそうだ。次の改選時に70歳以上を迎える13人からは引退者がでるものと思われる。年齢の若返りが図られるかもしれない。市議「専業」化の動向も気になる。専業は「もっぱら一つの仕事を業とすること。専門とする事業・職業」(三省堂「スーパー大辞林」)とある。市議で生計が立つことは優秀な人材をリクルートするうえで不可欠。地方政治の専門家としてまず期待するのは市政のチェック。あわせ、任期中「なに」を実現したいのか、その闘いの妨げとなっている「制度や考え方」を明示し、「硬い板に力強く、ゆっくり穴をあけていく」(M.ウェーバー)、そのようなことに情熱と研鑽を積む議員が増えてほしい。

 またこの6月、市議会内に議員定数見直しの特別委員会が設置された。その結果は次の選挙で適用される見通し。前回の定数見直し時に参照したモデル(議員数=15.4+0.0223×可住面積+0.0102×普通職員数)を使うと定数に変化はなさそうだが、市の財政状況などをどうみるか、目が離せない。

「もう地元に帰ってこんでもええよ」

 今回の選挙で、河井克行被告からの現金20万円を受領し話題になった市議会の議長をも務めたベテラン現職が5票差で落選した。

 河井案里氏の引責辞任にともなう参議院広島選挙区の再選挙は4月25日投開票。立憲民主党などが推した宮口治子氏が、自民党の候補者らを抑えて初当選。河井克行被告は6月18日、東京高裁で懲役3年の実刑を受けた。カネの使途解明や受け取った議員100人が不起訴になるなど課題は残されたままである。また5月18日の裁判で同被告は「一刻も早くふるさとの土を踏ませていただき、謝罪させていただきたい」と述べたが、判決翌日の毎日新聞(広島・備後面)は「結局、有権者に対して、一度も説明しないまま判決を迎えた。もう地元に帰ってこんでもええよ」との声をのせていた。あまりの身勝手さにあきれている市民は少なくない。


13:36

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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