日誌


2021/07/22

POLITICAL ECONOMY第196号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
いつまで続くのか、無責任体制-平時の無責任が一挙に増幅

                         経済アナリスト 柏木 勉

 菅首相はコロナ感染者の「重症者以外は自宅療養を原則」とする方針を打ち出した。だが、自宅への放置・棄民だと猛反発を受け、直後に入院を「重症化リスクの高い患者以上」に修正した。現状をみれば、8月下旬には全国の自宅療養者は11万8000人に激増(埼玉県は含まれず)、加えて「療養先を調整中」が3万2000人となっている。自宅療養での症状急変、入院不可で死亡するケースが増加し、もはや指定感染症上の2類指定=「入院が原則」は完全に崩壊し、空文句となりはてた。保健所機能はとっくに崩壊。このような状況を招いた政府・自民党の責任は徹底して追及されなくてはならない。

 だが国民目線からは、自治体の責任も追及されるべきだろう。なぜなら現状の法体系は政府と自治体の権限および責任が曖昧で、両者の役割と責任が明確でないからだ。これが最大の問題なのだ。同時に民間主導の医療制度も大問題だ
 
政府、自治体、医師会の三すくみ

 いつぞやこのメルマガに書いたが、例えば、厚労省はコロナ対応として自治体に対して「こうしろ、ああしろ」と諸々の通知や事務連絡を出している。だがそれは何ら法的強制力をもたない。自治体への技術的助言、ご参考、行政指導でしかない。そのようなものだから、厚労省には法的責任がないのだ。元厚労大臣・舛添は次のように述べている。

 「・・・しかも、以上のような保険適用方針の説明も、すべて厚労省の「通知」(事務連絡)で行われる。厚労省健康局結核感染症課長の名の通知(事務連絡)行政では、国会のコントロールも効かない。・・・私も厚労大臣を経験したが、課長レベルの通知を一つ一つ点検しているわけではない。トップの大臣すら知らないまま、官僚が国の大きな方針を決めている・・・つまり、このような「通知」は法治国家の根幹にも関わるのであるが、単なる「技術的助言」という位置づけであり、役人の恣意的な運用の隠れ蓑になっている」(JBpress「なぜこの期に及んでもPCR検査は増えないのか」2020年7/25(土) 配信)

 次に自治体だが、実際の対策を決定し遂行する主体は自治体だ。保健所の設置、運営主体も自治体だ。しかるに自治体は十分な人的能力、カネをもたない。だから厚労省のご指導を中心に動いている。両者がもたれあっているのだ。そこから責任の押し付け合いが生まれ、ことが迅速にすすまない。この有事においては中途半端な地方分権が元凶になっている。無論、事案によっては知事がスピード感をもって対応するケースもある。しかし全体的には一年半をすぎても当初と同じ議論を繰り返している。何か進んだものといえばワクチン接種だけだ。もっともこれも遅すぎたわけだが。

 「野戦病院」の件でも厚労大臣は、早急に自治体と医師会が協力し体制を整えてくれというが、それは要請=お願いだ。自治体は、民間への強制力はないから国が医師会へもっと強い要請をしてくれと云う。医師会は、我々民間は公的な政策に関しては、まず政府なり自治体が具体的な要請を提示しなければ動けないと云う。要は三すくみで互いにリーダーシップを発揮してくれと言いあっている。有事の際の法的指揮命令系統の一本化、司令塔の法的明確化が不可欠だ。そのためには法改正が必要になる。だが直近ではもっと緊急の細かな問題に関する法改正が必要だ。

臨時国会を早急に開け

 ところが、政府・自民党は臨時国会召集を昨年も今年も拒否している。国会を開けば、コロナ対応の諸々の無策を攻撃され、国民にそれがはっきりと明らかになるからだ。来る総選挙にきわめて不利になる。総裁選で国民の目をそらす思惑もある。開かない弁明として「コロナ危機で顕在化した法制度の変更は時間がかかる。成案を得られない」と言っている。だが、これは明らかに逃げである。なぜなら、成案を得られなくても活発な論議で「何が問題であり、解決の方向はどの様なものか」が国民に見えてくるからだ。それに議員立法の提出も大いに行えばいい。個別案件に関わる議員立法は多数出るだろう。当面できるものから法案化すればいいのだ。にもかかわらず国会閉会で妨害する。まさに「国民の命よりも党利党略優先」そのものである。

医療ひっ迫緩和に向けイベルメクチンの使用拡大を
 
 ところで、自宅療養が激増してしまったからには、遺憾ながらそれを大前提として今後の対応を強化するしかない。自宅療養激増につき、野党は政府・与党の責任を厳しく追及し国民に対し謝罪させるべきである。そのうえでどうするか?小生は自宅療養での改善効果が見込まれる「イベルメクチン」の使用拡大(緊急使用の承認)を急ぐべきと考える。

 イベルメクチンはノーベル生理学・医学賞受賞者・大村智博士が発見した、抗寄生虫病薬だ。コロナ感染者にも効果があると海外でも評価され、すでに日本でも相当数の医者が実際に使用し効果を認めている。何よりも飲み薬であるため、開業医の動員による外来を含め自宅療養が簡単になる。経過観察の体制整備により軽症段階の治療で重症化を防ぐ。結果、医療のひっ迫の緩和・防止に大きく寄与する。軽症段階での改善、治癒が重要なのだ。だが現状は適応外使用でしかない。調達量は少なく使用は広がらず、このままでは野戦病院での使用にも期待がもてず、家庭内感染(自宅療養やむなしになる)の急増にも対処できない。だがイベルメクチン使用拡大に向け立憲民主党が6月に法案を提出ている(日本版EUA整備法案)、また、東京都医師会の尾?会長も緊急使用を提言しているし、多数の現場の医師からも使用拡大を要求する声があがっている。危機的状況から脱するため役立つものを総動員すべきだ。

 その柱の一つがイベルメクチンだ。


08:05

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告