日誌


2015/09/17

「グローカル通信」第20号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
介護の背後でうごめく邪悪な面々

                                   元新潟県教職員組合員 南雲 明男

 筆者は昨年12月、新潟の介護施設の一事例を報告しました。その続報です。

 元総務相増田寛也ら日本創成会議は、「地方消滅」レポートの論争の渦中にある中で、またまた高齢者の要介護老人を東京圏(1都3県)から地方に移住させる必要があると提案しました。この結論的評価を先に言えば、後期高齢者の増加を、介護施設と介護産業を新たな市場経済段階に引き上げる機会とみる提言であり、人間をモノとみる資本・企業を鼓舞する論理が透けています。

 10月2日の朝日新聞に、ワタミ(居酒屋チェーン大手)が介護事業(全国125カ所)を損保ジャパン日本興亜に210億円で売却することが報じられました。報道されない事例が各地で先行していると思われます。水面下で利益を求めて弱肉強食の競争がうごめいているのでしょう。その一例を新潟の例からもみてみましょう。

 新潟市秋葉区(旧新津市)の社会福祉法人「心友会」の斎藤政夫元理事長は、独善とずさんな運営、サービス残業など私的利益を追求してきました。働く職員にとってはブラック法人に他なりません。あまりのひどさに新潟県から行政処分を受け、背任罪で逮捕、起訴(2014年10月)されているのですが、事態は一向に改まりません。

この法人に第四銀行は13億円の融資をこれまで行ってきました。地方銀行にとっては、法人の倒産にでもなれば焦付き大きな損失を免れません。銀行は金融業の本領を駆使して法人の存続を図って事態を隠ぺいしているのです。

 逮捕起訴された元理事長が自ら探してきた弁護士が、福井大海(元公安調査庁総務課長)というヤメ検で、最初起訴されないためにと1000万円の弁護料を取り、起訴後は無罪を勝ち取るためにはあと1000万円必要だと要求したそうです。さすがに元理事長にそんな大金もなく今年5月ごろ福井弁護士を解任しました。「基本的人権、社会正義の実現」の使命を掲げる福井弁護士らは、心友会法人をある関東の企業に23億円(一説には50億円)で売り渡す画策をしていたといいます。また、石川県でも同じような案件を持っていると話していたそうです。

介護現場に浸透する市場原理

 これらの事例は、増田提言に先行し呼応するかのごとく、大手企業が地方の介護施設を傘下に収めるべく暗躍している氷山の一角にすぎません。マスコミや知識人が言及しない水面下の事柄と申さねばなりません。

 元理事長が就任を依頼した現在の社会福祉法人「心友会」理事長は、小泉内閣で農林副大臣を務めた栗原博久です(2013年参院選で日本維新の会から比例区で出馬落選)。彼には暴力団とのつながりを含めて黒いうわさが常に付きまとっています。上が上ですからまじめな人は早く辞めてしまい、悪質な職員しか残っていないというのです。入所者の介護は、生きている幸せが担保されているのでしょうか。訴えることも声も出せない入所者、被害が出ないことを祈るのみです。

 増田提言の本質は、介護の領域に市場経済に適合するように介護老人を再配置=移住させる政策です。この経済的自由主義の下で推進される経済・社会政策によって、さらに市場社会が創出されるからです(カール・ポランニーの示唆から)。


11:33

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

LINK

次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告