「瑞穂の国の資本主義」とは・・・
NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員・平田芳年
日本経済新聞に連載された「安倍政権の1年」(2013年12月10日付)によると、11月中旬、安倍晋三首相は首相公邸で麻生太郎副総理、木下康司財務次官らと会食し、「アベノミクスは絶対に成功させる。ただそろそろその先を考えないといけない時期に来ている」と語り、経済政策の次の一手に触れた。「新たな目標として構想するのは『瑞穂(みずほ)の国の資本主義』。弱肉強食ではなく、ものづくりを重視した独自の経済モデル」だという。
「瑞穂の国の資本主義」は1年前の2012年12月、現安倍政権発足直前に発売された『文藝春秋』1月号に寄稿した安倍晋三(自由民主党総裁)政権構想「新しい国へ」の中の一説で触れている。
「私は瑞穂の国には、瑞穂の国にふさわしい資本主義があるのだろうと思っています。自由な競争と開かれた経済を重視しつつ、しかし、ウォール街から世間を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国には瑞穂の国にふさわしい市場主義の形があります。…伝統、文化、地域が重んじられる、瑞穂の国にふさわしい経済のあり方を考えていきたい」
政権構想では「デフレ退治と日銀改革」、「成長戦略をどう描くか」など当面の経済対策に分量を割き、「瑞穂の国」部分は約1000字の短文で、わずかに「東京一極集中を解消して道州制を導入」、「自立自助を基本とした社会保障」、「棚田のある田園風景」に触れている程度。経済政策として見るには余りにも具体策に乏しい。
アベノミクスの賞味期限切れを意識
それから1年、アベノミクスの「三本の矢」はメディアに頻繁に登場するが、安倍首相が「瑞穂の国の資本主義像」を語ることはほとんどない。経済誌を含むメディアの大半も黙殺したままで、その肉付けは手つかずのまま。ではなぜいま「瑞穂の国の資本主義」なのか。日経紙の報道から見えるのは、長期政権を意識しはじめた官邸サイドが、アベノミクスの賞味期限切れを前に、「経済の安倍」を売り出す次の一手を画策し始めたというところだろう。
その中身は想定するには材料が乏し過ぎるが、直近の臨時国会で示された安倍首相所信表明演説(2013年10月15日)を手がかりに、その姿を予測すると、「再び、起業・創業の精神に満ち溢れた国を取り戻す」、「フロンティアに挑む企業には新たな規制緩和により、チャンスを広げ、事業再編を進め、新陳代謝を促し、新たなベンチャーの起業を応援」、「研究開発を促進し、設備投資を後押しして生産性を向上」、「今後3年間を『集中投資促進期間』と位置付け、税制・予算・金融・規制制度改革といったあらゆる施策を総動員」、「日本の農産物の可能性を世界で開花させてほしい。都道府県ごとに農地をまとめて貸し出す『農地集積バンク』を創設、世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」…とある。
この所信表明で語られている経済施策と政権構想が強調する「ウォール街から世間を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国」を比べると、誰しもその落差の大きさに唖然とする思いを抱く。それは「稲穂が実る棚田のある田園風景」と「世界で一番企業が活躍しやすい国」のイメージが持つ決定的違いに起因するものだ。
具体策はこれから
少子高齢化が急速に進む日本はどのような国・社会の形を目指すのか、経済のグローバル化とどう向き合うのか、拡大する格差構造をどう是正するのか、疲弊した地域経済をどう再生するのか、膨大な借金を背負う国家財政は本当に再建できるのか…。日本経済に突きつけられた課題は余りにも大きい。いつまでもアベノミクスを唱えていれば済む時代ではない。
12月24日の経済財政諮問会議でも民間議員から「アベノミクスを中長期的発展につなげるための施策について検討を進めるよう」に提言があったという。2014年1月の通常国会に示される安倍総理の施政方針演説で、この「瑞穂の国の資本主義」の具体的姿にどこまで言及するのか、注目したい。