日誌


2013/11/15

POLITICAL ECONOMY 第11号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「瑞穂の国の資本主義」とは・・・
                  NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員・平田芳年
              
 日本経済新聞に連載された「安倍政権の1年」(2013年12月10日付)によると、11月中旬、安倍晋三首相は首相公邸で麻生太郎副総理、木下康司財務次官らと会食し、「アベノミクスは絶対に成功させる。ただそろそろその先を考えないといけない時期に来ている」と語り、経済政策の次の一手に触れた。「新たな目標として構想するのは『瑞穂(みずほ)の国の資本主義』。弱肉強食ではなく、ものづくりを重視した独自の経済モデル」だという。

 「瑞穂の国の資本主義」は1年前の2012年12月、現安倍政権発足直前に発売された『文藝春秋』1月号に寄稿した安倍晋三(自由民主党総裁)政権構想「新しい国へ」の中の一説で触れている。

 「私は瑞穂の国には、瑞穂の国にふさわしい資本主義があるのだろうと思っています。自由な競争と開かれた経済を重視しつつ、しかし、ウォール街から世間を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国には瑞穂の国にふさわしい市場主義の形があります。…伝統、文化、地域が重んじられる、瑞穂の国にふさわしい経済のあり方を考えていきたい」 

 政権構想では「デフレ退治と日銀改革」、「成長戦略をどう描くか」など当面の経済対策に分量を割き、「瑞穂の国」部分は約1000字の短文で、わずかに「東京一極集中を解消して道州制を導入」、「自立自助を基本とした社会保障」、「棚田のある田園風景」に触れている程度。経済政策として見るには余りにも具体策に乏しい。

アベノミクスの賞味期限切れを意識

 それから1年、アベノミクスの「三本の矢」はメディアに頻繁に登場するが、安倍首相が「瑞穂の国の資本主義像」を語ることはほとんどない。経済誌を含むメディアの大半も黙殺したままで、その肉付けは手つかずのまま。ではなぜいま「瑞穂の国の資本主義」なのか。日経紙の報道から見えるのは、長期政権を意識しはじめた官邸サイドが、アベノミクスの賞味期限切れを前に、「経済の安倍」を売り出す次の一手を画策し始めたというところだろう。

 その中身は想定するには材料が乏し過ぎるが、直近の臨時国会で示された安倍首相所信表明演説(2013年10月15日)を手がかりに、その姿を予測すると、「再び、起業・創業の精神に満ち溢れた国を取り戻す」、「フロンティアに挑む企業には新たな規制緩和により、チャンスを広げ、事業再編を進め、新陳代謝を促し、新たなベンチャーの起業を応援」、「研究開発を促進し、設備投資を後押しして生産性を向上」、「今後3年間を『集中投資促進期間』と位置付け、税制・予算・金融・規制制度改革といったあらゆる施策を総動員」、「日本の農産物の可能性を世界で開花させてほしい。都道府県ごとに農地をまとめて貸し出す『農地集積バンク』を創設、世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」…とある。 

 この所信表明で語られている経済施策と政権構想が強調する「ウォール街から世間を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国」を比べると、誰しもその落差の大きさに唖然とする思いを抱く。それは「稲穂が実る棚田のある田園風景」と「世界で一番企業が活躍しやすい国」のイメージが持つ決定的違いに起因するものだ。

具体策はこれから

 少子高齢化が急速に進む日本はどのような国・社会の形を目指すのか、経済のグローバル化とどう向き合うのか、拡大する格差構造をどう是正するのか、疲弊した地域経済をどう再生するのか、膨大な借金を背負う国家財政は本当に再建できるのか…。日本経済に突きつけられた課題は余りにも大きい。いつまでもアベノミクスを唱えていれば済む時代ではない。
 
 12月24日の経済財政諮問会議でも民間議員から「アベノミクスを中長期的発展につなげるための施策について検討を進めるよう」に提言があったという。2014年1月の通常国会に示される安倍総理の施政方針演説で、この「瑞穂の国の資本主義」の具体的姿にどこまで言及するのか、注目したい。


18:01

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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