日誌


2024/12/30

POLITICAL ECONOMY第278号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
フジテレビ、親会社の責任はどうなっているのか
                              金融取引法研究者 笠原 一郎
 
 このところのテレビ報道・ワイドショーは、フジテレビ(以下「フジTV」という)をめぐる有名タレントが引き起こしたとされる深刻な人権トラブル事案(以下「本トラブル事案」という)にかかる情報一色となっている感がある。トラブル事案の事実確認については、すったもんだの末に設置される第三者委員会の調査に委ねるとして、ここでは上場持株会社であるフジ・メディア・ホールディング(以下「フジMHD」という。)のメディア事業子会社のフジTVにおけるリスク管理ガバナンスと、これを指揮・監督すべきフジMHD取締役たちの責務についてコーポレート・ガバナンスの視点から考えてみたい。

 日本において持株会社が解禁されたのは、1995年と歴史的にはそれほど古いものではない。他の会社の株式を保有・支配することを通じて収益をあげる持株会社という会社形態は、戦前日本おいて独占的に経済・産業を支配した財閥の復活につながるものとして、戦後の長い間、独占禁止法により禁じられていた。しかしながら、持株会社には、統一した指揮のもとで効率的なグループ経営を行えることにメリットがあるとされ、フジMHDもこの組織形態をとっている。

親会社は子会社を監視する義務を負う

 この持株会社によるグループ経営においては、子会社の事業が適正に行われず、すなわち、本トラブル事案にあるようなフジTVの不祥事では、子会社の企業価値の低下から持株会社たるフジMHDの企業価値(株価)も低下する(現実には、フジMHDの株価は上昇局面もみられたが、、、)。会社法上では、この子会社であるフジTVの業務執行につきその決定・実行をするのは、フジTVの取締役であるが、一方で、会社法には、内部統制システムとよばれるルールが存在する。これは親会社・子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するための体制の構築を求めるものである。また、親会社の取締役には、善管注意義務の一つとして、子会社を監視する義務を負うものとされている(伊藤靖史ほか『会社法』有斐閣 参照)。長々と説明したが、これが持株会社の形態をとる企業グループのコーポレート・ガバナンスの基本フレームであると考える。

 フジMHDホームページに掲載されている「コーポレート・ガバナンスに関する基本方針」では、基本的な考え方として、放送法に基づく認定放送持株会社として、メディア産業を取り巻く環境変化にいち早く対応し、企業価値を向上させるためには、この持株会社の形態がグループの経営資源の最適な配分が行える最も適した組織形態であると謳う。放送の公共性を重んじ、もって社会的責任を全うする基本理念に基づき、・・・グループ全体のコーポレート・ガバナンスの体制について検討を続けます、とある。

 本トラブル事案について、上記の「コーポレート・ガバナンスに関する基本方針」を踏まえ、メディア事業子会社であるフジTV、そしてその持株親会社であるフジMHDの対応を振り返ってみると、この持株会社という組織形態が、経営資源の効率性を優先するあまり、フジMHDが負うべき放送の公共性とその社会的責任に対して、いかにその責任の所在を曖昧にする、すなわちガバナンス機能が欠落した形態であることが、明らかになった感がする。

 現実の子会社であるフジTVのリスク対応・危機管理の拙さをみてみると、本トラブル事案が週刊誌で報じられた直後に、時を置かず「会社の関与なし」とのコメントを発信し、世論はその調査内容に疑念を抱いた。こうした世論に押されて、今月中旬に行われた第一回目「会社説明」では、フジTV社長の定例会見という形式での開催として、限定した記者に対してのみで、しかもテレビメディアであるフジTVがテレビカメラを拒否したことで、トラブル事案にかかる説明の内容よりも、その開催形式に批判が集中し、CMの多くはACジャパンに差し替えられた。ついには第二回目の10時間超のカオスともいえる説明会開催に追い込まれることになった。

フジMHDの取締役は何をしていたのか

 ここまでで子会社を指揮・監督すべきフジMHDの姿が、まったくと言っていいほどに見えてこない。企業集団の業務の適正を確保するための体制構築の責を負うべきフジMHDの取締役たちはいったい何をしていたのであろうか(辛うじて、第二回目の説明の後に、社外取締役が共同して経営刷新の声明を出してはいるが、、、)。

 確かに、本トラブル事案は非常にセンシティブな事案であり、被害者のプライバシーを完全に守らなければならない事案ではある。そこでリスク情報がフジMHDまで上がってなかったことも、おそらくは事実であろう。しかしながら、こうした状況を考えあわせても、例えば匿名化した危機情報を上げさせる仕組みを構築し、適切に危機管理対応を監督することこそがフジMHDとその取締役たちの役目ではないだろうか。コーポレート・ガバナンスの充実に旗を振る日本取引所グループCEOであった清田瞭フジMHD取締役は、このフジMHDの危機管理ガバナンスの在り方についてどのように考えるのであろうか。             


17:34

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

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これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告