日誌


2018/12/26

POLITICAL ECONOMY 132号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「監視ビジネス」隆盛を喜べるか
              NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田芳年

 「侵入させない、侵入者をいち早く検知する防犯システム&スマホで見られる遠隔監視カメラ。店舗・事務所の監視カメラ・まずは防犯無料診断・全国優良防犯コンテストNo1・お得なセットプランあり・サービス: 企業用監視カメラ設置, 企業用防犯カメラ設置, セキュリティシステム設置」

 ネットで「監視」を検索すると、こんなキャッチコピーを宣伝する企業広告がいくつもヒットする。IT技術を高度化したAIの急速な進展を背景に、いま「監視ビジネス」と言われる新たな産業分野が注目を集めている。市場調査会社によると米国で「2016年に303億7000万ドル(約3兆3700億円)規模だった画像監視サービスは、2022年には756億4000万ドル規模にまで成長すると見込まれており、年平均成長率は15.6%」(「マーケッツ&マーケッツ」)だという。

 「警察は防犯カメラに映った映像をもとに犯人を逮捕」。ここ数年、メディアの犯罪報道でよく耳にするフレーズだ。事実、都心の繁華街などで防犯カメラが急増し、その抑止効果もあって、犯罪の発生件数が大幅に減少しているという。こうした防犯体制を支える「監視ビジネス」が活況を呈することは、その限りでは喜ばしいことなのだろう。だが、「監視」という機能だけに着目してAI化の様相を観察すると、その先に手放しで喜べない社会の実相も垣間見える。

中国-AIを駆使し監視国家に

 AI社会の近未来を覗くには、世界最先端のAI先進国と言われる中国社会の現状を知ることが手っ取り早い。

 アリババ集団の馬雲会長は「ビッグデータの時代に、AIの力を借りれば市場の“見えざる手”に代わる計画経済が実現する」が持論で、中国では国家レベルのAI化が進む。中国政府は2014年に初めに「社会信用システム」制度を提案、2020年度までに全人口14億人にこの制度を適用するという。同システムは「日頃の行動やSNSでの発言、犯した不正行為などを総合して個々人にランク付けし、スコアが高いものに恩恵を、低いものに罰を与えるというもので、低くランク付けされた者は飛行機や高速列車の予約が取れず、日々の生活にも様々な不便が生じる」(「ニューズウイーク日本版」2018年5月2日号)よう設計されているという。

  雲南省ではデータベースに登録された容疑者と人相が一致した人物を発見できる顔認証機能付「ハイテクメガネ」を警察が使用、要注意人物をピックアップ監視。深センや西安では信号機を無視した通行人を監視カメラの顔認識技術で特定し、警察に知らせる試みが始まっており、新疆ウイグル自治区などでは鳥形ドローンによる上空からの広範囲な監視を行っているという。ここまで来ると、ジョージ・オーウェルが小説「1984年」で描いた監視国家と重なる事態だ。

 専制体制の中国では社会の抵抗も抑圧され、上からのAI化が進み易いが、こうした監視・管理システムは欧米や日本でも水面下で進行している事実はあまり報道されていない。米ロスアンゼルス市警は6年前から過去の犯罪データや天候、バー・クラブの営業予定などからその日の犯罪を予測するシステムを導入、京都府警は2年前からNECと共同開発した犯罪予測システムを運用する。民間でも万引き犯罪を事前予防する監視システム(千葉県)、警備ロボット(総合警備保障)、ドライブレコーダーを使った見守り隊(福井県)、スマホデータで営業社員の動きを1分刻みに把握するなど多彩。

「監視ビジネス」に社会的規制は必要

 これらのシステムを支えるのが上述の「監視ビジネス」。中国、米、イスラエル企業が先行し、米シリコンバレーの監視ビジネスベンチャーは企業価値が410億?に上るほど巨大化している(日経ビジネス、2018年11月12号)。日本ではNEC、キャノン、パナソニック、日立などのほか、ベンチャー企業も登場する。いずれも事業内容は企業秘密を理由に秘匿、外からはうかがい知れない。AIは専門性が高く、近寄りがたい印象があるが、しかし監視社会を受け入れないのであれば、こうした動きを社会の側からチェックし、AIの悪用に警鐘を鳴らす活動が欠かせない。

 個人の検索履歴や買い物履歴、通信データなどのビッグデータを握るグーグルやアップルなど「GAFA(ガーファ)」と称される巨大IT企業が、公正な競争環境をゆがめかねないとして、欧米で規制を強化する取り組みが始まっている。EUは昨年5月、個人情報の保護ルール「一般データ保護規則」を施行、プライバシーを侵害する個人情報へのリンクを削除できるよう求める「忘れられる権利」が明文化された。民主的で自由な活動が保障される市民社会に逆行する監視社会のツールとなりかねない「監視ビジネス」にも社会的規制の網を広げる必要がある。  


10:09

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告