日誌


2019/03/20

POLITICAL ECONOMY139号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
G20とグローバル市民社会運動
                  横浜アクションリサーチ 金子文夫


有力NGOを中心にC20を開催

 今年6月に大阪でG20サミットが開かれる。サミットの他に、分野別のG20閣僚会合がその前後に各地で開催される。こうした政府レベルの会合に合わせて、「エンゲージメント(参画)グループ」といわれる8分野の非政府レベルの会合が開かれている。しかしその内容についてはメディアがほとんど報じないため、関係者以外にはあまり知られていないのが実情だろう。

 エンゲージメントグループは、政府側と連携しつつそれぞれの政策提言を作成し、G20に提起することを目的としている。それらを列挙すれば、B20(経済界)、C20(市民社会)、L20(労働組合)、S20(科学者・学界)、T20(シンクタンク)、W20(女性)、U20(都市)、Y20(若者)である。G20は2008年のリーマンショックを契機に発足し、議長国を交代させながら毎年開催されてきた。それとともに、非政府のエンゲージメントグループも次第に形を整えていった。

 2013年にスタートしたC20(Civil 20)は、G20に参加する各国の有力NGOを中心に組織され、グローバルな課題に関する政策提言を行ってきている。今回のC20は4月21日から23日まで東京で開かれた。主催者発表によれば、世界40カ国からのべ830人が参加したという。

C20 東京集会では教育、環境など議論

 C20東京集会は、国際協力関連の分野に取り組んでいる日本のNGOが軸になって、70団体ほどが参加して開催準備にあたったという。準備の過程で、内外の410人がインターネットを通じて討議し、政策提言書(ポリシーパック)を作成している(英文A4版64頁)。内容的には、反腐敗、教育、環境・気候・エネルギー、ジェンダー、保健、インフラ、国際、財政・金融、労働・ビジネス・人権、市民社会組織、貿易・投資の10テーマから構成されている。そしてテーマごとに、G20のコミットメント、課題、提言という3項目を立てて記述されている。

 この提言書をもとにして開かれたC20東京集会は、1日目に全体会「民主的ガバナンスにおける透明性の重要性」、「東京民主主義フォーラム宣言の採択」と七つの分科会が開かれた。2日目は、G20日本政府代表(外務省)を交えたハイレベルパネルと七つの分科会がもたれた。3日目には、C20以外のエンゲージメントグループからのメッセージ紹介、G20日本政府代表(財務省)を交えたハイレベルパネル、三つの分科会などが開かれた。

 各分科会の性格は様々であり、その意義は個別に論じられる必要があるが、以下ではそこには立ち入らず、全体を通じた評価を記しておきたい。

市民運動への広がりに欠ける

 G7が先進国政府の会合であるのに対して、G20にはBRICSその他の有力な途上国政府が加わっており、それだけSDGsなどグローバルな課題が取り上げられる傾向にある。G7、G20それぞれの開催に際して、市民社会の側の関連した行動が組織されてきたが、C20のようなエンゲージメントグループの活動はG20に限られているようである。

 しかし、C20の取り組みは、政府に提言を行う点に集約されるため、政治的インパクトに乏しく、メディアでもほとんど報道されない。また、政府を補完するような協調的な活動スタイルのため、批判的・対抗的な視点が弱い。政策提言書の構成に示されるように、まずG20のコミットメントを前提にして、その達成度を評価して課題を抽出し、提言をまとめるという形にとらわれている。草の根の市民運動への広がりに欠けている点にも限界がみられる。提言を行うにしても、大衆的基盤を拡大させ、批判的視点を備えた提起を追求していく必要があろう。

 一方、グローバルな課題に対する市民社会の運動としては、かつてはG7(G8)サミット、WTO閣僚会議、IMF・世銀総会などに対抗する行動が組織されていた。その潮流は世界社会フォーラムへと集約されていった。しかし、そうした反グローバリゼーション運動は、以前ほどの存在感を示せなくなっている。日本で開催されたサミットについていえば、2000年の沖縄サミット、2008年の洞爺湖サミットでは大きな対抗アクションが組織されたが、2016年の伊勢志摩サミットはあまり盛り上がらなかった。2019年のG20サミットでは、どのような規模の対抗運動が準備されているのか、現時点で情報は少ない。

 グローバリゼーションは日々進行しており、その負の影響をいかに制御していくか、主要国の政府に任せておくわけにはいかない。2019年のG20大阪サミットを契機にして、協調的な提言活動と対抗的な反グローバリゼーション運動という市民社会運動の2極分化をどう超克していくか、新しい構想と知恵が求められているように思われる。                 


07:50

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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