日誌


2014/04/10

グローカル通信 第5号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
アベノミクス、地域経済への浸透はまだまだ—その2

                             神奈川県寒川町議会議員 中川登志男

 1月のメルマガで、私は、アベノミクスの地域経済への浸透はまだまだである、というレポートを、地元企業の経営者の声などを基にまとめたが、寒川町議会の3月議会の一般質問で、このことについて取り上げてみたので、今回はそれをレポートしたい。

 「景気は緩やかに回復している」ものの、「地域経済まではいまだに実感できるものではない」。町議会3月議会の冒頭に町長から発表された「平成26年度施政方針」には、そのような認識が示されていた。これを受け私は一般質問で、景気の回復基調をどのようにして地域経済、町の経済につなげていくのか、町側の見解をただした。

 まず私は、2月3日の日経新聞に掲載されていた各種の経済指標を基に、株価や建設工事の受注、公共事業の請負金額やマネタリーベースなどが、安倍政権発足以降、非常に伸びていることを指摘し、いわゆるアベノミクスの「3本の矢」のうち、「大胆な金融緩和」と「機動的な財政出動」については、経済指標に非常によく現れているのではないかという考えを示した。

 ただ、それだけでは与党議員的なアベノミクスの宣伝にしかならないので、現金給与総額はほとんど伸びていないことも同時に指摘し、資産を持っている人には、確かに景気回復だが、資産を持たぬ人にとっては景気回復ではなく、「景気回復感」といった方が正確ではないか、と一言イヤミを付け加えておいた。ついでに、「3本の矢」の3本目、つまり成長戦略については、「中身が今一つつかみづらい」
とも指摘しておいた。

リーマン・ショック以前に戻っていない

 町長からの回答は、以下のようなものであった。町長は昨年末に、20社以上の町内企業を訪問したが、「リーマン・ショック以降の低迷から徐々に脱却してきてはいるものの、リーマン・ショック以前までに回復した状況にはない」というのが、各社の所感であったという。

 その上で町長は、町としても「日本経済の回復基調をいかにして地域経済へつなげていくかが大きな課題であると認識している」として、「地域の優位性を内外にアピールするため」の「行政の枠組みを超えた取り組み」の必要性を強調した。具体的には、藤沢市、茅ヶ崎市、寒川町で構成する湘南広域都市行政協議会が、12年11月に策定した「湘南広域産業振興戦略」に基づき、製造業など基幹産業分野を中心とした取引拡大支援、あるいは、技術開発支援、人材育成支援、国際展開支援など産官学が連携した産業活性化に向けた取り組みを進めているという。

さがみ縦貫道路開通と「さがみロボット産業特区」で変わるか?
 そして、町としてもこうした取り組みを進めつつ、さがみ縦貫道路の全線開通と「さがみロボット産業特区」への位置づけといったインパクトを適切にとらえ、産業誘致への取り組みを進めることで地域経済のエンジンを回したい、との認識を示した。

 また、日本経済の回復基調を地域経済に結びつけるよう、神奈川県町村会を通じ、「地域経済が回復する大規模な補助金制度や交付金制度の創設」を国に対して要望しているところであるとも答弁した。

 もっとも、経済の問題というのは、まさにグローバルな問題であり、市や町といった行政区画を超えた問題でもある。その意味では、一自治体、ましてや寒川町のような小さな町だけで取り組めることには限界もあろう。それゆえに、藤沢市や茅ケ崎市との広域連携による産業活性化という回答が、町側からなされたのだろうと思う。

 また、「大規模な補助金制度や交付金制度の創設」の国への要望というもの、結局は補助金・交付金頼みなのかという気もしないではないが、「地域経済のエンジン」を回すための資金も、やはり町だけでまかなうのは現実として困難である。

 地域は地域の立場から、地域経済の回復に努めていかねばならないと思うが、地域経済の回復において、都道府県のような広域自治体や国の果たすべき役割も、小さくないと思われる。大都市、大企業、資産家などに目が向きがちなアベノミクスに、果たしてそうした視点はあるのだろうか。地域の立場からしっかりと見ていかねばならないと思う。


11:53

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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