日誌


2022/11/19

POLITIKAL ECONOMY第239号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
連合は「黒星春闘」の返上なるか
            グローバル産業雇用総合研究所 所長小林 良暢

  連合の新年交歓会に出席した岸田文雄首相は、物価上昇分を超える賃上げを経済界に求めた。これに対して連合の芳野会長は、「最低賃金の見直しや非正規雇用者の処遇改善など、全体の底上げをすることが先決である」としつつ、23年春闘に向けて「今年はターニングポイント(転換点)の年」だとして、「実質賃金を上げ、経済を回していくことが今まで以上に大切だ」と強調した。

 ニトリホールディングスの白井俊之社長は、2023年の春季労使交渉について、基本給を一律で底上げするベースアップと定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率を「最低でも4%を確保したい」と述べた。ベア実施は実施されれば20年連続となる。

株式市場は躓き相場

 経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体トップは5日、東京都内で年頭の記者会見を開いた。春闘への対応について、経団連の十倉雅和会長は「一時的な賃上げでいいという議論もあるが、それではいけない。ベースアップを中心に、物価高に負けない賃上げをぜひお願いしたい」と述べ、「構造的な賃上げ」を実現するよう呼び掛けた。また、同友会の桜田謙悟代表幹事は「平均値で達成できるかと言えば、簡単ではない」と指摘、業種・企業ごとに業績のばらつきがある中、「出せる企業はそれ以上の回答を考えている社長もいる」として、賃上げで平均値を示すことに疑問を呈した。日本商工会議所の小林健会頭も、「賃上げできる年になることを切に期待しているし、そうしなければならない」と強調。中小企業の賃上げを持続させるために、大企業との取引価格の適正化や、生産性の向上が必要だと訴えた。

 今年の世界経済の見通しについては、3氏ともに欧米のインフレの行方や中国経済の動向をリスク要因に挙げ、「世界経済は想定以上に悪い」(桜田氏)との見方も出た。ただ、日本経済については、「ようやくウィズコロナが実現しつつある」(十倉氏)が、全般的に経済活動は活況には至っていない。

 1月4日の大発会の日経平均株価は、暮れの大納会比で377.64円(1.45%)安の2万5716円と下落、22年3月15日の2万5346.48円以来、9カ月半ぶりの安値で、冴えない年明け相場となった。その後10日に前日比201.71円高と、ようやく大納会の終値を上回ったが、新年株式市場は出だしで躓いた。

電機連合「ベア7000円」要求

 賃上げへ「転換」を目指す23連合春闘は、「5%程度」の賃上げを目指している。連合の芳野友子会長は5日、東京都内で記者会見を開き、2023年春闘に向け「今年はターニングポイント(転換点)の年。実質賃金を上げ、経済を回していくことが今まで以上に大切だ」と強調した。連合は春闘の闘争方針で、基本給を底上げするベースアップを含め5%程度の賃上げを掲げている。

 電機連合は23年春闘で、基本給を底上げするベースアップ(ベア)の統一要求額を月額7000円以上とする方向で検討している。物価高を踏まえ22年から2倍超に増額する。生活必需品の値上げラッシュなどで物価が高騰していることを加味し、1998年春闘以来、25年ぶりの高い水準の要求だ。

 電機連合など産業別労組が加盟する金属労協は昨年12月、要求基準を「月額6000円以上」とする方針を決定しており、これを上回る。電機連合はこれまで9年連続で賃上げを獲得。今春闘は歴史的な物価高を踏まえ、前年掲げた「月額3000円以上」の2倍を超える要求で大幅な賃上げを迫る。統一要求を行う日立製作所などの12労組で議論し、26日に開催する中央委員会で正式決定する。

万年「黒星春闘」の返上なるか

 だが、この連合の目論見は悲観的と言わざるを得ない。連合の春闘集計の回答額が前年を上回ると〇(勝)、下回ると●(負け)とすると、「官製春闘」が始まった14春闘から22春闘までの9年間の勝ち負けの星取りは、5勝4敗と辛くも勝ち越している(表参照)。官製春闘が始まった古賀会長の2年間は2連勝、次の神津春闘は2勝4敗の負け越し、芳野会長の初戦は〇星スタートだった。
 
 23芳野春闘は「万年黒星」の返上することができるかが焦点である。1円でもいいから前年回答を上回ればそれが可能だが、せっかくだから芳野会長には7000円の大台の回答を引き出して、堂々たる金星を挙げることを期待したい。

12:13

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回の研究会は決まっておりません。決まりましたらご案内いたします。

 

これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告