日誌


2022/12/22

POLITICAL ECLNLMY第230号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
日本の富裕層人口は世界何位?
                    経済ジャーナリスト 蜂谷 隆

 アベノミクスで日本の富裕層はリッチ度を増している。異次元緩和で円安に誘導、株価を上昇させたことで金融所得が増えたためだ。

 厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると所得水準が最も高かったアベノミクス前の2012年と最新の2020年を比較すると、1500万円以上の世帯は、12年は2.8%だが、20年は3.7%と約1%も増えている。1000万円以上は1.4%も増加している。対照的に500万円以下の世帯は12年24.2%、20年は23.9%とほとんど変わっていない。

 この調査は世帯の所得なので、給与所得や年金収入などがある人が2人、3人という世帯は収入が増える。そこで、働いている個人の所得を調べてみると、国税庁の「民間給与実態統計調査」によると2012年1000万円以上3.8%、2000万円以上は0.4%だったが、2021年は1000万円以上4.9%、2000万円以上は0.6%だった。

 これはアベノミクスによる円安で大幅に利益を増やした輸出企業や業績好調のIT関連企業などの社員の所得の増加などによると見られる。低所得者層や所得の低い中間層の所得が変わらなかったのは、低賃金の非正規労働者が増えたためだ。アベノミクの間、最低賃金はそれ以前よりも高めの引き上げを行ったが、わずかな改善にとどまり底上げに至らなかったといえる。

東芝の前社長の報酬は5.2億円

 高所得者の増加をさらに詳しく見ると、年収 1億円を超える富裕層が増加している。企業経営者の報酬が増えたことと株式や不動産の売買などによる金融所得の増加したためだ。まず企業経営者の報酬を見ると、東京商工リサーチ調べによれば22年3月期決算で1億円以上の役員報酬を開示した企業は287社で、人数は663人だった。前年より34社増、119人増だった。社数・人数ともに開示制度が始まった2010年3月期以降最多となった。12年3月期決算では172社、295人なので、約10年で社数は1.7倍、人数は2.2倍になった。

 役員報酬額トップは、Zホールディングスの慎ジュンホ取締役で43億3500万円。驚くのは経営の混乱の中で昨年3月に退任した東芝の綱川智前社長が5億2300万円も得ていたことだ。その東芝は1億円以上の報酬を得る役員が13人で前年よりも1人増やしている。「『業績や時価総額が上がっているとはいえ経営は混乱している。役員報酬のルールを変えるべきではないか』という声が株主総会で上がった」(「朝日新聞」22年7月28日付け)のは当然だろう。

 背景には企業のグローバル化による経営者の報酬アップがある。法政大学大学院教授真壁昭夫氏によれば、「アメリカは10億円を超えるのが当たり前。欧州では5億円前後」(PRESIDENT ONLINE)というので、欧米並みにしたいということなのだろう。このほか自社の株価を報酬に反映するストックオプションの導入などによる収入増もあるだろう。

 では金融所得はどれくらいあるのだろうか。国税庁の「申告所得税標本調査」によると、年間1億円以上の所得者は最新の調査である20年で1万9397人いる。12年は1万2120人だったので1.6倍になった。10億円以上に絞ると257人から626人、100億円超では16人から28人と激増している。

 富裕層の特徴は不動産や金融資産が多いことだ。野村総合研究所の「NIR富裕層アンケート調査」(最新の調査は2019年)によれば、富裕層は124万世帯(全世帯数の0.23%)、金融資産から負債を引いた純金融資産額は236兆円となった。

 同調査は1億円以上5億円未満の資産保有者を富裕層、5億円以上を超富裕層、5000万円から1億円未満は準富裕層、アッパーマス層(3000万円以上5000万円未満)、マス層(3000万円未満)と定義している。




 2011年と19年を比べると超富裕層の金融資産額は44兆円から97兆円と2.2倍、世帯数も1.7倍となっている。富裕層も金融資産額、世帯数とも1.6倍だ。準富裕層、アッパーマス層、マス層は、いずれも1.0-1.3倍にとどまっているのと対照的だ()。

日本は「富裕層大国」

 日本の富裕層人口は、世界のランキングでみると何と2位だ。フランスのコンサルタント会社であるキャップジェミニ調べの「World Wealth Report 2022」によると、富裕層人口はトップが米国で746万人、2位が日本で365.2万人、3位はドイツで163.3万人、4位は中国で153.5万人となっている。今や日本は「富裕層大国」となっているのだ。富裕層は100万ドル(1億3000万円)以上の資産を保有している人。2011年と比べると日本の富裕層人口は2倍に増えている。ベスト10カ国を見ると中国2.7倍、米国(2.4倍)に次ぐ3位という増え方だ。

 中間層の没落はアベノミクスでは改善されずむしろ固定化した。そのなかでの富裕層の増加は富の偏在を示している。富の偏在は社会の不安定化だけでなく経済活性化を削ぐ要因になることを認識しなければならないだろう。岸田文雄首相は就任当初、富裕層の税負担率が低い現状を打破するために金融所得課税強化を訴えていたが、この政策の実施から始めるべきではないか。


12:00

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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