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2018/08/17

POLITICAL ECONOMY 第121号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
労働分配率、賃金、物価、労働生産性-要は力関係
 
                                                経済アナリスト 柏木 勉

 財務省に「ファイナンス」という広報誌がある。ついぞ知らなかったのだが昔からあったそうだ。たまたま財務省のHPを見ていたら6月号が目にはいってきた。するとコラム欄に「我が国の賃金動向と労働生産性」と題するものが載っている。総合政策課の職員が書いたものだ。なんとなく気になって見てみると、コラムではあるが賃上げの回帰分析とか生産関数とかを計算して労働生産性の要因分析などを行っている。だが、その画面をざっと眺めているうちに腹がたってきた。

一方的な御都合主義の主張

 要は、賃上げにとって労働生産性が大事だという主張である。冒頭いきなり「近年の賃金動向と、賃金に影響を与える要因のうち、特に労働生産性に着目して考察した」と書いている。賃上げについて労働生産性との関係しか考察しないというのだ。だから、この広報は経営側と一緒になって「労働生産性をあげれば企業利益も増えて賃金も上がりますよ」という主張なのだ。まさにプロパガンダだ。近年の賃上げは過去最高の利益を出しながら抑制されたままだ。それを全く無視しているのである。このような政府と経営側の一方的な主張に対しては、当方としてもそれにふさわしい反論をしなくてならないだろう。

 まず、計測している回帰式と生産関数について指摘したい。回帰式は3つの要因から次のように計測されている。
 賃金上昇率(前年比、%)=3.501+0.414消費者物価上昇率(前年比、%)-1.028完全失業率(%)+0.468労働生産性上昇率(前年比、%)
(計測期間は1991年から2016年、決定係数、各要因の係数の安定性はまずまず)

 コラムの筆者たちは最初から労働生産性に着目し、労働生産性上昇率の係数は0.468と比較的大きい。だから賃上げにとって労働生産性の向上が非常に重要だといっている。だが、まず定数項3.5が大きすぎる。これは賃上げ率を3つの要因では多くを説明できないことを示している。また賃上げに対する各要因の影響度(寄与度)が示されていない。これは回帰式に各要因の実績値を挿入して計算される。だが、それが明示されないのではどの要因がどれだけ賃上げに影響を与えるのかわからない。

 更には生産関数の計測では、資本ストックのデータが不可欠だが、資本ストックは金額で集計される。しかし利益見通しによって大幅かつ頻繁に変動してしまう。一方で計算に必要な投入労働は物量だ。だから理論的に誤ったしろものでしかないのだ。

要は力関係なのだ

 次に、コラムが一方的に主張するのだから、労働側として一方的な主張を行おう。

 コラムは労働分配率を全く無視している(実はこの無視された分配率の増減は定数項の3.501に一定部分含まれて隠されているのだが)。

 労働分配率は労組の交渉力、戦闘力を示すものといってよい。そこであらためて、労働分配率S、名目賃金W、実質労働生産性π(π=Y/L)、物価Pの関係を確認しよう。(ただし、Lは雇用労働量、Yは実質生産量)
労働分配率の定義式S(S=W×L/P×Y)から変形すると以下のようになる。
   W=P×S×(Y/L)=P×S×π ――(1式)
これを伸び率に直すと
   賃金上昇率=物価の上昇率+労働分配率上昇率+実質労働生産性上昇率――(2式)  
(伸び率に変形するには対数微分が必要だ。だが簡便法として「掛け算はプラス、割り算はマイナス」にして計算すればいい。たしか中学で習うと思うが)

 だから(1式)より、労働分配率を上昇させれば賃上げ率は上昇する。当たり前のことだが。ところが、労働分配率が上昇するのは労働側の交渉力、戦闘力が高くなり強化されなければならない。しかし財務省としては「労組はもっと強くなれ、もっと頑張れ」などとは決して言えないから労働分配率を無視している。もっぱら経営側と一緒に
なって労働生産性の向上だけを主張しているわけだ。
 
 加えていえば(2)式から、労組の賃上げは労働分配率向上だけでなく、物価上昇分と労働生産性上昇分も合わせて獲得すべきだということになる。これが本来の賃上げだ。

(2)式からは 
労働分配率上昇率=賃金上昇率―(物価の上昇率+実質労働生産性上昇率)
となり、賃金上昇率が「物価の上昇率+実質労働生産性上昇率=名目付加価値生産性上昇率」を上回らなければ労働分配率は低下する。

 無論、(1式)は労働分配率という定義式から出てきたものだから(1式)も(2式)も定義式であり、右辺が左辺を決定するという因果関係を表すものではない。だからどんなふうにいじくってもいいのだ。

したがって(2式)の物価上昇率を移項すれば
 物価の上昇率=賃金上昇率―労働分配率上昇率―実質労働生
産性上昇率となる。これは昔懐かしい経営サイドの主張である。いわくインフレ抑制には、労働分配率を一定として、賃上げ=実質労働
生産性上昇分でなくてはいけないというわけだ。
要するに(1式)は定義式だから、相対立する双方が自分に都合の良いように利用すればいいだけのものだ。だから、要は双方の力関係なのだ。

実は労働分配率は誤った考え

 というわけだが、最後にこんなことを書くのは恐縮だが、実は労働分配率という考えは間違いなのだ。賃金は労働力の再生産費であって、生産の果実を労働側と企業側が分け合うというものではない。企業によって購入された労働力の使用価値(労働)から生まれた生産物は全て購入した企業のものになる。これが資本主義の正しい現実である。

11:57

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