新着情報

 RSS
POLITICAL ECONOMY第272号11/15 21:34
富裕層への課税強化は時代の要請だ          横浜アクションリサーチ 金子 文夫  衆議院選挙は自公政権の敗北に終わり、政治状況は流動的になった。政治資金問題がこの変化をもたらしたわけだが、日本が取り組むべき格差是正問...
POLITICAL ECONOMY第271号10/30 08:51
「誰も断らない」座間市の取り組みの意味              街角ウォッチャー 金田 麗子    職場の同僚(60歳)の母(85歳)が、特別養護老人ホーム入所を待っているのだが、二人の年金とわずかな蓄えで暮らしてきたので、この先の...
POLITICAL ECONOMY第270号10/14 10:47
SNSネット社会の生き方とは              金融取引法研究者 笠原 一郎    先日来のテレビワイドショー番組は、兵庫県知事のパワハラ問題が大きく取り上げられているが、ちょっと前までは、芸人YouTuberフワちゃん氏がS...
POLITICAL ECONOMY第269号10/02 07:25
頑迷ドイツの石頭をすげかえよ               経済アナリスト 柏木 勉  欧州では極右・ポピュリスト政党の伸長が著しい。ながく権力を維持してきた既成政党は失墜しつつあり、民主主義の危機だとかファシズムの時代が近いとか暗...
POLITICAL ECONOMY第268号09/16 07:42
日本初の生体肝移植から35年        労働調査協議会客員調査研究員 白石利政  毎年夏の初めに高校の同窓会報がとどく。会費納入の時期がきたのかと思いながらページをめくると、「特別寄稿 永末直文君の逝去に想う」が目についた...

メールマガジン「POLITICAL ECONOMY」の配信について

現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会は、日本および世界の経済の動きをとらえ、認識を深めることを目的に研究会活動を行っています。経済を中心に社会、政治など知的集積の場として「POLITICAL ECONOMY」をメールマガジンとして配信しております。

 「
POLITICAL  ECONOMY」は、会員の方々による発信の場です。メーマガジンとして配信、同時にホームページ上でも公開しております。大きく動く世界と日本の経済、社会の動きを分析、発信していきたいと考えています。
 

メルマガ

メルマガ >> 記事詳細

2022/02/10

POLITICAL ECONOMY台206号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
日本はデジタル化の遅れを取り戻せるか
                                         金融取引法研究者 笠原一郎

 “日本はデジタル化に取り残された”との声を受けて、前の菅政権は「デジタル庁」なるハコモノを昨年9月にスタートさせた。発足の前段階から河野前行革大臣の“ハンコなくせ”の掛け声もむなしく、旧来慣行が止む気配は見えない。また、新デジタル庁の長にはデジタルとは相当に距離があるように見えるご高齢の大学教授が就任され、鳴り物入りで開発を進めたコロナ感染対策ソフトCOCOAはチェック不全から機能せず、“アベノマスク”と同じく見向きもされない悲しいものとなっている。

 さらに“民”でも、みずほ銀行が社運をかけて数千億円を投じた最新鋭システム“MINORI”がたて続けに大規模なシステム障害を引き起こしている。この原因として3行合併の弊害、IT人材の軽視と様々に報じられているが、いずれにせよデジタル化への焦り、地に足がついていない現状を映しているように見える。

なぜ、日本のデジタル化がこれほどまでに残念なのか
1.埋もれる有能な人材

 まず言われていることは、デジタル先端人材の困窮であるが、デジタル化のベースとなるシステム構築の現場はどのようになっているか。システム製造工程のほとんどはSE(システム技術者)と呼ばれる“人”に依拠する。彼らはユーザーの求めるシステム仕様の要件を定義(概要設計)し、これを作動させるプログラムに書き込み、これら様々な機能のプログラムを結合し、実データ等を投入したテストを経て、一連のシステムを完成させる。

 こうした工程の流れはウォーターフォール型開発とも呼ばれるが、作る人個々の能力・IT感度に依存するところが大きい。しかしその現場業態は、旧態然とした請負・外注-ITゼネコンと呼ばれる元請けの大手システム会社から何階層にもわたる下請け-構造の上にある。

 政府・地方公共団体・銀行等の大口ユーザーから発注を受けたITゼネコンは、要件定義・プログラムからテストまで、多くの工程で下請け・SEに“丸投げ”し、納期で縛り雁字搦めにする。ここでITゼネコンの腕の見せ所は、如何に安く・技術のある下請け・SEを手配できる(囲い込める)かにある。要するに、彼らはITの技術ではなく、資金力と過去の経緯等によって仕事を受注し、上前の多くをピンハネする。言葉は悪いが“人足手配”業である。

 報酬の多くはシステムの構築を担った技術者たちにではなく、ITゼネコンに吸い上げられ、本当に技術をもつ人が報われない構図である。こうして日本ではITリテラシーをもつ有能人材は、手配師となるか、階層の下位で働くか、に埋もれてしまう。これでは彼らが持つ新たな創造の芽は摘まれ、データとデジタル技術の融合を目指すDX(Digital Transformation)は望むべくもない。

2.DXの創造と叫んでも踊るのは手配師の親玉

 IT業界内では数年前からDXの推進は叫ばれている。しかし、こうしたIT業界の構造のなかで、いかにDXの創造と叫んでも、踊るのは手配師の親玉でしかないITゼネコンと丸投げのご本尊と化した国・行政のみとなる。“IT人材の海外からの招聘”も議論となっているようだが、怪しげな海の外の人たちにピンハネ構造の更に上前をはねられるのが関の山であろう。

 アナログ人間の私ではあるが、数年だけIT業界に身を置いた者の“肌”感覚として、多くの現場IT技術者の潜在能力は高い。では、日本のIT産業構造のなかで、如何にすれば、報われることが少ない有能なデジタル人材を活用し、DX創造の芽を育てることができるのであろうか。

IT人材の活用、発注する側も変わらねば

 凝り固まったこうした構造を変革させていくには、昔の誰かの
“構造改革!”の雄叫びだけでは厳しい。IT人材の活用には、作る側だけでなく発注する側もまた変わらなければならない。日本で最も大きなITユーザーは、国・地方公共団体等の“公”に関わるセクターであろう。しかし、残念ながら彼ら自身には発注したシステムの機能チェックすら期待出来ない。

 そこで暴論と言われるかもしれないが、“公”のシステムの発注にあたっては、元請けのITゼネコンに対し「最終テストでの請負・外注の禁止」を求めるのはどうだろうか。“公”であれば通知1本である。ITゼネコンはシステム工程の全てを自らが理解していなければ、最終テストは出来ない。すなわち構築したシステムの品質に全面的な責任を持たせる。と同時に、品質を確保のためにはデジタル人材をITゼネコン内で処遇・活用せざるをえないところにも繋がろう。

 これのみでデータとデジタル技術の融合というDXの遅れを戻せるものではないとは思う。しかし、少なくとも報われることが少ない有能人材が陽の目を見る、積極的に活用させるための構造転換こそが、DX創造に臨むための第一歩ではないだろうか。国はハコモノを作って綺麗なポンチ絵を描くだけではなく、まずは足元を見つめなおし、日本のIT産業構造の変革を促すところから考えるべきではないだろうか。

09:55

LINK

次回研究会案内

次回の研究会は決まっておりません。決まりましたらご案内いたします。

 

これまでの研究会

第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告