日誌


2015/04/18

「グローカル通信」第16号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
が先か鶏が先か—新幹線新駅構想

                                    神奈川県寒川町議 中川 登志男

 私が議員を務める神奈川県寒川町は、東側に「江の島」で有名な藤沢市、南側に「サザン」で有名な茅ヶ崎市、西側に「七夕まつり」で有名な平塚市が隣接する、湘南海岸から内陸に数km入ったところにある、人口4.8万人、面積13㎢の町である。

 町には南北にJR東日本の相模線(単線)が通り、だいたい15〜25分間隔で4両編成の電車が細々と走っている。町内には南側から順に「寒川」「宮山」「倉見」の3駅があるが、この倉見駅付近には東西にJR東海の東海道新幹線が走り、数分おきにごう音を立てて高速で新幹線が通過していく。

 この東海道新幹線の新横浜〜小田原間(51.2km)のほぼ中間にある倉見駅付近に新駅を誘致しようというのが、新幹線新駅構想である。

 もともと1970年頃から、寒川町倉見地区の他に、西隣の平塚市や2つ東隣りの綾瀬市などで新駅誘致活動が行われていたが、誘致地区は、97年に相模線が南北に通る寒川町倉見地区に一本化された。だが、現在もなお新駅が設置されそうな雰囲気はない。

 理由の一つは、JR東海が新駅設置に消極的なためだ。東海道新幹線は過密ダイヤであり、新たに中間駅を設置すると列車到着分のロスなどで、設定できる列車本数の減少につながるからである。リニア中央新幹線が開業し、東海道新幹線の輸送力に余裕が生じた場合などに検討対象になる、としているが、恐らくJR東海の本音としては、どれほどの利用客があるか分からない新駅の設置に余計な投資をしたくない、ということなのだろう。

 県や町は、倉見地区のまちづくりを進めた上で新駅誘致につなげたいとしている。しかし、新駅設置の見通しが立たないと、土地の提供など、同地区の地権者が協力しにくいというのも事実だ。まちづくりをした上での新駅誘致か、新駅誘致が決まった上でのまちづくりか、進め方に難しい部分がある。

JR東日本とJR東海の確執

 また、JR東日本と東海との協調も課題だ。倉見駅が相模線と東海道新幹線との乗換駅になるとしても、JR東日本の相模線が今のように15〜25分に1本という運転間隔では、どれほどの乗り換え客があるか分からず、東海道新幹線を運行するJR東海としても心もとない。だが、JR東日本にしても、東海道新幹線が倉見に新駅を設置するのなら相模線を増発しても良い、というスタンスなのだと思う。要は、JR東日本も東海も相手の出方待ちなのだ。

 JR東日本と東海との不仲は鉄道関係者の間では有名で、なぜ東京駅で丸の内側から順に、7〜10番線の東海道・高崎・東北・常磐線(JR東日本)、20〜23番線の東北・上越・北陸新幹線(同)、14〜19番線の東海道新幹線(JR東海)という変則的な並びになっているかと言えば、JR東海が14〜19番線という数字に固執して、東北・上越・北陸新幹線ホームの設置時に、その数字を東日本に頑として譲らなかったからである。

 逆に、品川駅の東海道新幹線のホームが妙に狭く、ホーム上に売店が設置できなかったのは、同ホーム設置に際して、JR東日本が東海に必要最小限しか土地を譲らなかったためである。このように、JR東日本と東海はとにかく折り合いが悪く、そのことが寒川町の新幹線新駅誘致にも影を落としている。

 こうなると、国鉄の民営化はともかく分割は良かったのかという問題にもなるが(寝台特急の相次ぐ廃止も、要は、運行範囲がJR各社にまたがり調整が面倒だからに他ならない)、それ以外にも、倉見地区のまちづくりに必要な数百億円とも言われる費用負担をめぐる、町と県との本格的な調整もこれからだ。

 寒川町の新幹線新駅構想は、複数の「卵」と「鶏」という連立方程式を解かないといけない難題であり、式が解けないまま18年の時が経過している。町と地元地権者、町と県、JR東日本と東海のにらみ合いは当分続きそうだ。


09:50

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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