日誌


2020/01/13

POLITICAL ECONOMY第158号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
ラオスの夜明けに貢献する熊本     
    
                               元東海大学教授 小野 豊和

 ラオスのビエンチャンで開催されたジャパンフェスティバル(1/31~2/2)に“くまモン”が初登場。“くまモン”がラオスに出かけるには、熊本出身でラオス駐在特命全権大使だった坂井弘臣大使(1995~1999、2017没)との縁がある。坂井大使は退任後熊本で暮らし、熊本ラオス友協会を設立、主に教育支援に力を入れた。その現場であるビエンチャン高校を訪ねた。日本語教室は高校一年生向けの授業中で40人の生徒が起立して迎えてくれた。本棚には日本の漫画本、玩具のけん玉などがあった。正規カリキュラムに組まれた「日本語」は、全学年対象11クラスで履修者は全学で約400人。先生は現地の女性教師5人。生徒に日本語を学ぶ目的を聞くと「エンジニアになりたい」「設計技師になりたい」「外科医になりたい」「まだ決めていない」…など日本語で答えてくれた。

 ビエンチャン高校は国立のエリート校で大学進学希望は100%。日本への留学希望を聞くと40人中10人。ラオスでは一般に中学から高校への進学率は85%。そのうち大学へは50%。学校制度は五四三制で,小学が5年、中学が4年ある。訪ねたビエンチャン高校は正式にはビエンチャン・セカンダリー・スクール(VSS)で日本に当てはめると小学5年を卒業した生徒が中学に入学して4年と高校で3年学ぶ期間に当たる。

 日本語の教員養成には吉田哲朗氏の存在があった。鹿島建設を55歳で早期退職しラオスに出向き「てっちゃんねっと」を立ち上げ日本語教育を始めた。当時ラオスでは中等教育学校校長会で第二外国語が話題になり、フランス語と中国語に加えて日本語導入をめざし、VSSで日本語教師養成講座を始めていた吉田哲朗氏に白羽の矢が立った。日本政府の後押しもあり、国際協力基金が日本語パートナーを派遣し、教科書の作成と日本語教師養成に協力した。一方、熊本ラオス友好協会の資金提供で2棟の寮(2011年建設)を運営している。収容能力は60人で毎年首都ビエンチャンから遠い地方の貧しい生徒を無償で受け入れている。生徒の日本派遣も行い2018年に5人、2020年に2人が予定されている。

南北・東西回廊の要衝に位置するラオス

 ラオスはタイ系民族の一派ラオ族が定住し、多くの政治的集団をまとめて後にラオスと呼ぶようになる。1353年にファーダム王がラーンサーン(100万頭の象の意味)の王国を建設しルアンパパーンを都とした。土俗宗教から上座部仏教を王国統治の原理としたことで托鉢と五戒(不殺生、不偸盗、不邪婬、不妄語、不飲酒)が国民を精神的に支える基盤となる。古都ルアンパパーンは村全体が「伝統的建造物、都会的建造物、19世紀から20世紀の植民地建造物の他に類を見ない優れた融合。その景観は見事に保存され…」と言う理由で1995年にユネスコの世界文化遺産に登録された。景観条例により道路に面する建物の外観は変更できない。328段の階段を登りつめたフーシーの丘から見える夕陽がメコンの川面に反射し、山に沈む夕陽のダイヤモンドの輝きに感動した。

 南北回廊ともいう中国昆明からタイのバンコクに繋がる鉄道工事の現場を見た。ゼネコンは中国法人、労働者は全員中国人、一時的に中国人村ができ飲食業者も中国人だ。建設資金だけがラオス政府による借款で現地の雇用機会とはなっていない。返済不可能になるとどうなるのか心配になった。ベトナムのダナンから陸路ラオスを超えタイに通じる東西回廊の国境の橋は第二友好橋として日本のODAで実現している。

 「熊本―ラオス」直行便の3月就航が延期になった。直行便の効果は、観光のための人間交流だけでなく、南北回廊、東西回廊の交差点に位置するラオスがタイ、ベトナム、カンボジア、中国からの物流の拠点となることで開発が進むため早期の就航が期待される。

 蛇足だが、タート・クワーンシ-の滝の近くに「熊の保護センター」があり世界の熊の写真が展示されていた。ディズニーの「プーさん」から始まり最後の23番目は「くまモン」だった。    

11:49

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告